私の考え

議員立法の王道を行く保岡興治(2014年11月27日)

 私は政治家であると同時に法律家でもあります。

 司法試験の勉強、司法試験合格後の司法修習、裁判官としての実務経験は、私の政治活動の力になっていますが、その最たるものは議員立法です。
 官僚は時に縦割りなど組織の論理にとらわれて機動的抜本的な改革をできないことがあります。私は時代の大転換期であるが故に今ほど官僚の制約を乗り越える政治主導が大切な時はないとの信念を貫いてきました。そして、衆議院法制局や官僚をも巻き込み多くの議員立法を成立させてきました。

 国政復帰以前の多くの議員立法のうち主な例を挙げます。
 第1に、党の「政治改革大綱」を私が起草して、新しい国造りを目指す小選挙区制度を柱とする「政策・政党本位の政治」を確立する政治改革を主導し、議員立法により画期的な選挙浄化を目指す日本版「選挙腐敗防止法」を実現しました。
 第2に、経済の活性化を促す法案や企業法制の立案にもリーダーシップを発揮しました。平成8年には不当な競売妨害を排除する「民事執行法の一部改正案」を成立させましたし、平成9年には商法の改正を初めて議員立法で実現させ、ストックオプション制度の一般化を実現しました。さらに、平成11年には定期借家制度の導入を可能とする「借地借家法の一部を改正する法律案」を成立させました。
 第3に、日本国憲法の改正手続に関する法律(いわゆる憲法改正国民投票法)を与党筆頭提案者として成立させました。
 第4に、平成22年1月1日に施行された著作権法の改正により、音声及び映像に関して、違法コンテンツと知りながらダウンロードする行為が違法となりました。この際、私は、浪人中の身ではありましたが、杉良太郎様の要請を受けて改正を主導しました。

 こうした取り組みは、2年前国政に復帰してからも続けてきました。以下では、この2年間に私が関与してきた議員立法の主要なものについて列挙した後に、その内容と経緯について簡単にご紹介したいと思います。

【目次】

 ①サービサー制度の積極的な活用に向けて
 ②死因究明制度の改善
 ③公共工事の適正化に向けた対応
 ④生活環境に悪影響を及ぼす空家の対策
 ⑤選挙権年齢を「18歳以上」へ
 ⑥一票の格差を是正するための「0増5減」区割り法案
 ⑦建築士事務所の業務の適正化に向けて
 ⑧社会保険労務士の業務拡大
 ⑨「宅地建物取引士」の誕生
 ⑩行政書士に対する行政不服申立て代理権付与
 ⑪不動産鑑定士について

【内容と経緯について】

①サービサー制度の積極的な活用に向けて
 現在、窮境にある中小企業等の事業者が円滑な事業再生や債務整理を図る場合、当該事業者が有する債権を迅速かつ効率的に回収することが不可欠ですが、現行の法律では不十分です。
 そのため、事業再生や金融機関関連などのサービサーが扱える債権の対象を拡大し、事業再生の手続等におけるサービサー制度のより積極的な活用が可能となるようにサービサー法(債権管理回収に関する特別措置法)を改正することにしました。
 私は、自民党事業再生・サービサー振興議員連盟会長を務めており、本年11月18日に開催された自民党の政審・総務会で、「サービサー法の一部を改正する法律案」の提案理由の説明を行い、自民党内の手続は終了しています。

②死因究明制度の改善
 死因究明は、死者の生存していた最後の時点における状況を明らかにするものであり、これを適切に行うことは、医学の発展にとってはもちろん、死者の尊厳や遺族の権利を保護し、犯罪や事故による死亡の見逃し、感染症の拡大を防止する観点からも重要です。
 しかし、我が国における死因究明の現状は、医療水準が世界最高水準であるにもかかわらず、諸外国と比較して極めて低い水準にあります。このような状況を改善するために、私は異状死死因究明制度の確立を目指す議員連盟会長に就任し、後にご紹介する橋本岳衆議院議員らとともに精力的に取り組んだ結果、死因究明等の推進に関する法律が制定されました。
 この2年間、この法律に基づき検討されてきた内容を強力に実施するための改正に取り組んできました。現行の死因究明等の推進に関する法律で定められていた死因究明等の推進に関する基本理念や国・地方公共団体の責務を維持発展させるとともに、死因究明等に関する施策の基本となる事項を定め、死因究明等に関する施策を総合的かつ計画的に進めるための死因究明等推進計画や、この計画を強力に推進する司令塔としての死因究明等推進本部について定める必要がありました。
 そこで、橋本龍太郎元総理大臣のご子息である若手の橋本岳衆議院議員に中心に立っていただきながら、私も、異状死死因究明制度の確立を目指す議員連盟会長及び自由民主党死因究明体制の推進に関するプロジェクトチーム顧問として議論に参加し、死因究明等推進基本法の取りまとめに尽力しました。本法案は橋本岳衆議院議員を筆頭提案者として先の通常国会で提出され、現在継続審議になっています。

③公共工事の適正化に向けた対応
 公共工事の予算削減に伴い、ダンピング受注や行き過ぎた価格競争が起き、公共事業の受注価格が年々下がっています。いわば、公共工事が「安かろう悪かろう」の状態に陥っています。このため、建設業は力を失い、地域にとって必要な防災、減災、復旧や老朽化した公共施設の対応などが危機的な状況になりつつあります。また、建設業は地域の雇用にとって大切なものであり、建設業の体力回復は鹿児島の景気回復のためにもまず第一に取り組まれなければならない課題です。
 私は、公共工事品質確保に関する議員連盟に設置された公共工事適正化委員会(野田毅委員長)の顧問として、住宅の品質確保の促進等に関する法律(いわゆる品確法)の改正をリードしました。
 具体的には、私は、この問題の専門家である佐藤信秋先生や脇雅史先生と協力しながら、地元の業界から詳しく話を聞いて状況を正確に把握した上で衆議院法制局と相談して保岡私案を取りまとめました。
 改正法は平成27年4月から実施される予定です。改正法案の内容は、公共工事の発注者は、本改正法の趣旨及び基本理念にのっとり、発注価格が、建設業が将来体力をつけるに足る適正な利潤を確保することや担い手の中長期的な育成及び確保に配慮しつつ、従業者の賃金や法定福利(事業者が負担する年金、医療、雇用保険)を適正に見積もることが義務付けられています。適正価格積算を発注者が適当に下げるいわゆる歩切りも違法とされました。
 現在、この法律の具体的な運用指針を作成中です。今後はこの運用指針に基づき現場で正しい法の執行を確保するために関係者と連携し、努力したいと思います。
 なお、公共建築物の管理(ビルメンテナンス)に関する公共事業発注適正化についても、検討を進めています。

④生活環境に悪影響を及ぼす空家の対策
 適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観などの点で地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしており、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、空家等の活用のために迅速な対応が必要となっています。また、地方公共団体からの強い要望もあり宮路和明衆議院議員が中心となり、放置できない空家を特定空家に指定し、特定空家が存在する土地の固定資産税優遇措置を廃止することなど的確な対応策を取りまとめました。
 私もこの問題に対する立法的手当ての必要性を痛感し、議連では積極的に発言し、その結果、宮路和明衆議院議員の最後の大仕事としてこの臨時国会の解散直前に全会一致で空家等対策の推進に関する特別措置法が無事成立しました。

⑤選挙権年齢を「18歳以上」へ
 上記の通り、私は、日本国憲法の改正手続に関する法律(いわゆる憲法改正国民投票法)を与党筆頭提案者として平成19年に成立させましたが、平成26年6月には、日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律が成立しました。
 憲法改正国民投票法には、附則に3つの検討課題(年齢条項の見直し、公務員の政治的行為の制限に係る法整備、国民投票の対象拡大についての検討)が定められており、平成26年6月の改正法により、これら3つの検討課題に対応して憲法改正の手続が整備されました。
 これにより立ち上がったプロジェクトチームによって検討が進み、今回議員立法により、選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げるための公職選挙法等改正案が取りまとめられ、本年11月18日、自民党の部会において了承され、同月19日、国会に提出されました。

⑥一票の格差を是正するための「0増5減」区割り法案
 私は、昨年の通常国会から本年の通常国会まで、政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会(いわゆる「倫選特」)の委員長を務めました。平成24年12月の総選挙が小選挙区における一票の格差が是正されないまま行われたため、高等裁判所で次々違憲判決や違憲状態とする判決が出ました。最高裁の判断が昨年秋に予定される中これに対応するため、昨年6月、私の倫選特で公職選挙法を改正し、定数を小選挙区において5減らす「0増5減」法案を成立させました。その経緯は平成25年5月20日付け「私の考え」に述べてあります。
 その結果、今回の総選挙から、小選挙区の新たな区割りで選挙が実施されます。

⑦建築士事務所の業務の適正化に向けて
 インフラ整備や国民の皆さまの住まいの建築に重要な役割を担う建築士が抱える課題にも取り組みました。
 自由民主党建築設計議員連盟の幹事であった私は、建築設計関係3団体(公益社団法人日本建築士会連合会、一般社団法人日本建築士事務所協会連合会、公益社団法人日本建築家協会)から提出された「建築物の設計・工事監理の業の適正化及び建築主等への情報開示の充実に関する共同提案」を検討しました。私は、地元の関係者とも懇談の機会を持ち、設計の業務を担う建築士事務所の契約責任が不明確となり、建築紛争の増大につながっていることや建築士へのなりすまし事案が増えていることを知り、新たな立法の必要性を痛感しました。
 私は、議員連盟の中に設けられた建築士事務所法勉強会のメンバーとなり、衆議院法制局の協力を得ながら法改正案の検討に尽力しました。
 その結果、先の通常国会において「建築士法の一部を改正する法律」が成立しました。この法律は、建築物の設計・工事監理の業務を適正化するための規定や建築主等への情報を開示を充実させる規定を設けるだけでなく、大規模な建築物の建築設備について国家資格である「建築設備士」の意見を聴くことを努力義務とするなど画期的な内容となったと思います。

⑧社会保険労務士の業務拡大
 賃金不払い等をめぐる裁判外紛争解決手続き(ADR)や訴訟に関し、社会保険労務士の役割を拡大して、労働者が泣き寝入りする事態を防ぐこと等を目的とする「社会保険労務士法」の改正法案は、議員立法として、今臨時国会で成立しました。
 本改正により、労務管理や社会保険に関する訴訟で「補佐人」として裁判所で陳述する権限が社労士に付与され、弁護士法人と同様に一人でも社労士法人を設立できることになり、さらに、特定社会保険労務士が単独で紛争の当事者を代理することができる紛争の目的の価額の上限が、60万円から120万円となりました。
 私は、自民党社会保険労務士制度推進懇談会の顧問として、日本弁護士連合会や全国社会保険労務士会連合会(堀谷政治連盟会長の長年の悲願を受け止めて、公明党の漆原良夫衆議院議員、民主党の枝野幸男衆議院議員、江田五月参議院議員などと私とが中心となって堀谷会長の意向を踏まえた改正案を取りまとめました。)等の関係団体の意向を踏まえ、本改正を推進しました。

⑨「宅地建物取引士」の誕生
 今年の通常国会で「宅地建物取引業法」を議員立法で改正し、宅建主任者とされてきた呼称が、来年4月から「宅地建物取引士」と名称変更されることとなりました。
 私は、宅建主任者の皆さまが国民の資産を安全に取引する社会的責務を担ってきた長年の実績が高く評価された結果、このような名称変更が実現したのだと思いますし、今回の改正により、さらなる資質の向上に励まれることを期待しています。

⑩行政書士に対する行政不服申立て代理権付与
 行政書士の方々は、かねてより、行政不服申立て代理権を行政書士に付与することを要望していました。
 私は、自民党行政書士制度推進議員連盟の野田毅会長の強い要請を受け、同議連副会長として、行政書士法を所管する総務省、日本行政書士会連合会、日本弁護士連合会等の意見を調整した上で、議員立法による行政書士法改正を推進しました。その結果、今年の通常国会では、行政不服申立て代理権を行政書士に付与することを内容とする行政書士法の改正が実現しました。今後は、一定の研修を受けた行政書士が「特定行政書士」の名称を付与され、行政不服申立て代理業務を行うことが可能となります。

⑪不動産鑑定士について
 最後に、議員立法とは直接の関係はありませんが、重要な士業の問題として、不動産鑑定士の問題にも触れておきます。
 「地価公示」は、公正・客観的な地価を示すものであり、相続税・固定資産税評価の基準として、また、公共事業に係る用地補償の規準として、極めて大きな役割を担っています。
 ところが、近年、財政面の制約から地点数が減少しており、地価公示の制度的基盤を著しく揺るがせており、極めて憂慮すべき状況にあります。そのため、私は、昨年12月に設立した「不動産鑑定士制度推進議員連盟」の会長として政府に強く働きかけ、「地価公示の充実」が「経済財政運営と改革の基本方針」(今年6月閣議決定)の中に盛り込まれました。現在、財務省と国土交通省の担当者と厳しい折衝を続けています。岡本主計局担当次長に直接電話するなど日本の地価評価の水準を適正なものにするために懸命な努力をしています。
 なお、不動産鑑定士制度推進議員連盟内に「証券化対象不動産の鑑定評価のあり方に関するプロジェクトチーム」(山本幸三座長)を設置して、資産流動化の勉強を開始していますが、将来、成案が得られれば議員立法で対応する可能性が大きいです。

 国民の皆さまの声に耳を傾け、その声を立法へと結びつける。この議員立法の王道を私は愚直に続けてきましたし、これからも続けていきます。
 最近になって議員立法が増えてきましたが、その道を開いたのは元総理大臣の田中角栄先生とその薫陶を受けた私であると自負しています。

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