私の考え

「犯罪被害者の尊厳を守りたい」(2014年11月27日)

 平成26年11月23日付け南日本新聞の一面に犯罪被害者のことが特集されていました。奄美の龍郷町幾里の方が、ある日突然母親を殺害され、一瞬にして平和な家庭を破壊され、身内を失った悲しみ以上に大変な精神的苦痛を受けさせられる状況が掲載されていました。
 「犯罪被害者」という立場は、重大な犯罪であればあるほど、ある日突然、何の前触れもなく訪れます。犯罪被害者の方々は、何ら非のない場合でも、一生癒されることの苦しみにさいなまれます。我が国における犯罪被害者の尊厳に対する配慮や権利の保障は、今日に至るまで長らく不十分でした。特に、犯罪被害者の方々は、捜査・公判では単なる証拠として扱われ、最近まで当事者としての地位は与えられていませんでした。

 私は、法務大臣を拝命した当時、犯罪被害者の痛恨極まりない声に直接触れ、こうした方々の苦しみを少しでも和らげることを願い、施策に取り組んできました。
 全国犯罪被害者あすの会(NAVS=National Association of Crime ∨ictims Surviving Families、松村恒夫代表幹事)の方々とは定期的に意見交換を行い、我々が取り組む施策が犯罪被害者のご要望に沿っているものであるかどうかを確認する作業を怠らないようにしています。本会の方々は、自らもカウンセリングを受けたりしながら、ほかの犯罪被害者の方々が立ち直ることができるよう支援活動に取り組んでおられます。私は、本会の顧問を務めておられる岡村勲弁護士とは長年交流させていただいておりますが、岡村弁護士ご自身も仕事上の逆恨みから奥様を殺害されたご経験を有しており、岡村弁護士のご意見は重く受け止めなければならないと常々感じています。

 岡村弁護士との交流が始まったのは平成12年のことであり、私が法務大臣在任中のことでした。当時、「あすの会」代表幹事を務めていた岡村弁護士が法務大臣室を訪問され、被害者の権利と被害回復制度の確立などを求めた要望書を私に手渡されました。これを機に私は犯罪被害者等基本法の成立に向けて努力することになります。
 平成15年7月、私は岡村弁護士から依頼され、杉浦正健官房副長官(当時)、約39万余の署名を持参した「あすの会」のメンバーとともに小泉総理を訪問しました。事態を重く見た小泉総理(当時)は犯罪被害者のための施策の検討を進めるように指示をしました。これを受けて、私は司法制度調査会において検討に着手し、平成16年6月には司法制度調査会は「犯罪被害者のための総合的施策のあり方に関する提言」を取りまとめ、同年8月には「犯罪被害者保護・救済特別委員会」(陣内孝雄委員長)と、その下に「犯罪被害者基本法案プロジェクトチーム」(陣内孝雄座長)とが設置されました。その後、同年12月、異例の速さで議員立法により犯罪被害者等基本法が制定されるとともに、それに基づく犯罪被害者等基本計画が取りまとめられました。この間、上川陽子衆議院議員(現法務大臣)は同プロジェクトチームの事務局長を務められるなど、与党内や野党との調整に奔走され、法案成立の立役者となりました。

 その後、犯罪被害者の尊厳を守るという観点から、平成20年12月、「被害者参加制度」が創設され、ようやく犯罪被害者やその遺族も、特定の事件の公判廷において、情状証人や被告人に対して尋問・質問を行うことや、事実又は法律の適用について意見を述べることができるようになりました。犯罪被害者は、それまで刑事裁判の中で終始受け身の立場に置かれていましたが、本制度により自ら主体的に公判手続に参加することができるようになりました。このことは、刑事手続における犯罪被害者の位置づけを単なる「証拠の一つ」から「当事者」へと向上させるものであり、極めて意義深いことです。

 今年の通常国会では、国外で犯罪被害に遭い亡くなった方の遺族に対して弔慰金を支給するための「国外犯罪被害者の遺族に対する弔慰金の支給に関する法律案」が自民党と公明党から提出され、本臨時国会においても継続審議となっています。また、自民党の司法制度調査会において、犯罪被害者等に対する法的援助制度の策定を内容とする総合法律支援法の改正を行うべきなどとする提言を取りまとめました。

 こうした制度が犯罪被害者にとって真に利用しやすいものとなるためには、制度面・運用面での改善のための不断の努力が欠かせません。
 憲法に目を向けると、現在の日本国憲法には、被告人の権利は多数明記されていますが、犯罪被害者の権利が明記されておりません。私は、日本国憲法の中で、国民の権利として「犯罪被害者の権利」が明記されるべきだと考えており、自民党の憲法改正草案にも「犯罪被害者の権利」が明記され、私の意見が反映されています。近い将来、日本国憲法に「犯罪被害者の権利」が明記されることに力を傾けることを誓い、更なる制度・運用の改善を着実に進めていきたいと思っています。

 冒頭の南日本新聞の記事にもあるように、鹿児島県における犯罪被害者への対策が意外にも遅れておりいたく責任を感じました。鹿児島県では、犯罪被害者に対する自治体支援が極めて遅れており、損害回復や経済支援、心のケアを受ける際の条例も計画も定められておらず、このような県は全国でも5県しかないということです。また、この記事の中から、精神障害者の行為が心神喪失で犯罪にならない場合、不起訴になるケースで被害者が事件の真相を知る機会がなく、また入退院の情報もないということですが、この点について捜査当局も努力しているとは思いますが今後よく検証し、適切な対応を取ろうと思いました。
 私はこれを機会に鹿児島県や司法当局など関係者と相談をして、犯罪被害者の対策をさらに充実してまいりたいと思います。

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