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司法制度改革について

国民の知恵を結集して"世界一の司法制度"を目指す

6月2日、司法制度改革審議会設置法が可決、成立、内閣の直属として司法制度改革審議会が設置された。7月にはその第1回会議が開かれ、いよいよわが国の司法の在り方を根本から問う議論がスタートした。 21世紀、透明なルールと自己責任が求められる時代が訪れるとき、司法制度はいかに在るべきか?
今回の特集では、政界、法曹界などで活躍中の方々へのインタビューをもとに日本の司法制度の将来を考察する。


自由民主党司法制度調査会長
衆議院議員
保岡興治氏
VS
東京リーガルマインド
代表取締役会長
反町勝夫


自ら裁判官、弁護士の経験をもち、平成10年6月に決定された自民党の司法改革に向けた報告「21世紀の司法の確かな指針」に全責任をもった司法制度改革推進のキーマンであり、自民党の司法制度調査会長で衆議院議員の保岡興治氏に司法制度改革の概要、抱負、予定についてお聞きした。





本質を見極めるための議論


反町
 内閣の直属として司法制度改革審議会が設置され、7月27日に第1回の会合がありました。審議テーマは昨年6月に保岡先生が中心となってまとめられた自民党の司法制度特別調査会報告に沿うもので、法曹人口増員、法曹一元、陪審制・参審制、法律扶助などがあがっています。検討項目は多岐にわたり、難問が山積しています。例えば、企業をとりまく法的問題でいっても、民暴などさまざまな課題があります。審議期間は2年間とのことですが、保岡先生はどのような審議を期待されていますか?

保岡
民事とは言え、民事訴訟だけで正義が守れるものではない。民暴に限らず不正、違法な点があれば、警察・検察が積極的に協力体制を組む機会をもっと確保する。そのような努力目標を答申で掲げていただくことはいいでしょう。しかし、その具体化は別なところで考えていただく。司法制度改革審議会は個別の法改正の細部を議論して掘り下げていく場とは思いません。
反町
大きな方向づけをする場であると。

保岡
例えば、商法に多くの問題があるとすれば、細目の検討ではなく、法改正の迅速化の必要性を提言していただく。商法など大きな法律の抜本的な改正ともなれば、10年も20年もかかります。それを5年、3年で行うような迅速性が必要であることをはっきりと示すことです。戦後の間もない頃は一通常国会で300件もの法案を処理していました。それが漸減して、平成元年にはついに100本を切った。今、約150本にまで増えていますが、時代の変化のスピードも早くなっているのですから、ますます法制度の改正は必要となるでしょう。そのためには、立法に当たる人員を増員するなどの国会改革が必要です。また行政も効率化しなければならない。アウトソーシングとしてシンクタンクを活用し、立法の必要性や、場合によっては、法案を試作し提言していただくことも一つの考えでしょう。役人が一から十までやることはないのですから。
反町
理念や大きな枠組み、筋道を議論するということですね。

保岡
日本が転換期にある今、抜本的な司法改革の必要性と理念や目標などを審議して、司法改革の全体像を描いていただく。審議会には、そのように鳥瞰的、歴史的な認識をもって、本質を見極めるための議論を私個人としては望んでいます。





“世界で一番良い制度”を作る


反町
改革の議論にあたって、保岡先生が強調されていることはどのようなことでしょうか?

保岡
私は常々、“世界で一番良い制度”(国際社会から理想とされる司法制度)をつくる覚悟を持っていただきたいと言っています。世界一すばらしい司法とはどのようなものか? それを実現するための戦略性やプロセスはどうあるべきか? 裁判の迅速化、法的サービスの強化、法曹養成の質・量の問題など、いろいろな角度から、あるべき司法制度の全体像を描き、その像に向けて収斂させていく道筋や方向性を明確にする。それによって、国民や国会が検討しやすいように枠組みや目標を設定する。良い制度をつくるには、基本がしっかりしていなければなりません。それをよく議論するのが審議会の使命ではないでしょうか。メンバーの方には司法改革に対する構想や実現のためのプロセスを楽しむつもりで意欲的に取り組んでいただきたいですね。
反町
全体像を描くことが課題とのことですが、具体的な答えを早急に出すべき件もあるのではありませんか?

保岡
やりやすいものから取り組み、司法制度改革に勢いをつけることは必要でしょう。そういう意味では、民事法律扶助制度を第一に取り上げていただきたいと考えています。現在、予算はわずか6億円くらいです。これを大幅に増やさなければなりません。そのような初年度の取り組み方が審議会の意欲と力を示します。「この審議会はすごいことをやるな」と国民が感じられるようにすることです。それによって、勢いをつけ、自民党の司法制度調査会や法務部会でバックアップして司法関係予算の抜本的拡大につながるような動きを生みたい。概算要求の期限は8月末日です。そういう大問題をすぐにやらなければならない状況にあるのです。
反町
難しい課題の中にも、緊急を要するものがありますね。

保岡
例えば、知的財産権の法的保護は日本の産業の生きる道であり、日本の将来にかかわる重大な問題です。ソフト関連の法制度を早く再構築しなければならない。今や、いわゆるジャパン・パッシングが起きています。日本における特許裁判は時間がかかりすぎてラチがあかない、アメリカで解決したほうが早いと、日本の裁判所を素通りするという現象が生じているとの指摘があるのです。これをどうにかしなればならない。現在、特許関連の裁判では、調査官のような形で特許庁から人が出ていますが、これを最高裁の調査官のようにするのか、裁判官の中に専門家を一人は取り入れるのか、その件に詳しい弁護士を登用する道を開くのか、方策はいろいろあるでしょう。その指針は早急に明確にすべきです。
反町
一方、審議に十分時間をかけるべき性質の内容もありますね。

保岡
法曹一元について言えば、昭和39年の臨時司法制度調査会の意見書でも「ひとつの望ましい制度」とされていますが、その中で「基盤となる諸条件は、いまだ整備されていない」と指摘されています。すなわち、法曹人口の飛躍的増加、弁護士の地域的分布の平均化、弁護士の職域拡大などです。法曹一元は来年度予算を拡充する民事法律扶助制度のように今日、明日にでも実行できるというわけではありません。また、一気に改革できるものでもない。ただ21世紀の司法全体の在り方を考えるうえで、裁判官任用制度の在り方を検討することは有意義でしょう。
 じっくり検討を加えるもの、大枠の考え方を決めて具体的な中身は後からつめていくもの、すぐ答えを出してスタートすべきもの、審議のテーマにもいろいろな性格があります。審議会にはまずそれを整理してもらう必要があります。





裁判の審理時間の長さをどうするか


反町
司法制度の問題点として指摘が多いのが裁判の審理時間が長すぎるということです。

保岡
関係者の努力によって、かなり迅速化がはかられてはいますが、やはり上訴審まで入れると、5年、10年かかることもあります。特に重大・複雑な事件、専門的な知識を要する審理については長期化しているとの指摘もあります。 それについてはさまざまな工夫ができるのではないかと思います。審理で重点を置くべき要点をあらかじめ議論しておいて、そこに焦点を絞った証人尋問を徹底的にやる。専門的な審理は参審で専門家を入れるとか、補助スタッフをつけるといった工夫も必要でしょう。
反町
裁判外の法的サービス、紛争解決手段を充実させる方法もあるのではないでしょうか。

保岡
「仲裁センター」のようなものをつくり、そこに弁護士を入れて、裁判より簡易に解決できる仕組みをつくってもいいでしょうね。できるだけ話し合いで解決する「和の精神」という日本の伝統にも合致する方法です。提訴した後は、そこで検討した調停員の意見が参考にされるようにすればいいのではないでしょうか。
反町
裁判の迅速化の解決策とされる法曹人口の増員について、どのような考えをお持ちですか?

保岡
どれくらい増やすべきかという量の問題もありますが、単に増やせばいいというわけではない。質の向上が伴わなければなりません。社会のニーズに対応する優れた法曹教育を考えるべきです。
反町
審議会のテーマとしても、法曹教育も含まれていますが、これについて、ロースクール構想を弁護士の柳田さんが発表されています。保岡先生は法曹教育について、どのようなお考えをお持ちですか?

保岡
多くの方のご意見をよくうかがって判断しなければならないと思っていますが、現段階で、法曹教育について私なりに漠として考えていることを申し上げれば、学生時代にはいろいろなことに関心をもって、広くものを考え、とらえる力を育てることが大事だということです。まず思考力、構想力、思索力、分析力を養うべきであり、法律の専門教育はその後で行うというアメリカ方式の考え方も参考になるのではないでしょうか。まず、ものの考え方を教える。具体的な法律知識は後からいくらでも勉強できます。
反町
審議会の佐藤幸治会長も最重要課題の一つとして法曹人口の増加をあげられています。2年後の審議会報告書では、どの程度の数字が答申されると思われますか?

保岡
今度、採用する司法試験の合格者から1,000人になりますが、その人たちに対する研修の受入態勢を見て、次の増員の目標をどうこなすかを検討するということになるでしょう。いずれにせよ、司法改革の理念が議論され、法曹養成の骨格ができていく中で、増員の具体的な数が検討されるべきものと思われます。
反町
1,000人、1,500人から、さらに増えるとお考えですか?

保岡
柳田先生の3,000人、15校のような案もあります。妥当な数字か、私は今のところ判断を下していませんが、そういう具体案をいろいろと出していただき、検討していきます。当然のことながら1,000人というレベルではとても足りないということかと思われます。






重要な自民党の役割


反町
現在、民間企業・団体、官公庁、地方自治体など法的サービスに対する需要が広がり続けています。その需要の増大にどう対応するかは重大な課題です。各士業の業際の垣根を低くするという問題、いわゆる業務独占資格の見直しについては総務庁規制改革委員会でも検討されています。裁判外の法的問題として、司法改革の一環として検討されるべきではないでしょうか?

保岡
確かにサービスすべき司法関係の事項は今後、多くなっていくと思われます。弁護士も隣接する法律専門の士業の方々と共に広くなっていくサービスに対応して行かなければならない。その大まかな方向を考えるあたりまでが司法制度改革審議会の仕事でしょう。後は政府、与党、また国会で仕切って、決定し、了承してもらえばいい。利害が複雑なことの細かい調整は党の法務部会や司法制度調査会で政治決断をもって行うことが必要です。細目にわたり、一つずつ弁護士会と角突き合わせるようなことではありません。今後、法的サービスの仕事が増加していく可能性を示しながら、「少しおおらかにしていきましょう、これくらいは認めたらいかがですか」とご提示する。その反応によって、弁護士会の司法改革に対する熱意もはかれるでしょう。国民がそう問うべきであり、その代表者である国会がリーダーシップをとるべきなのです。利害調整で、いたずらに時間をついやすべきではありません。
反町
審議会には全体の青写真をつくっていただき、現実の調整は党なり国会が行う。

保岡
そうです。2年間の審議期間では、すべてを細部まで具体化できません。大事なのは世界一の理想とされる制度をつくるという精神で全体図をわかりやすい絵として描くことです。
反町
橋本内閣の行政改革会議では党の行政改革推進本部が連携して名称問題や部局改組など多くの問題の解決を補った経緯もありますが、今回の改革においても、自民党の役割は重大ですね。

保岡
例えば、民事法律扶助についてはわが党が先導しなければできない。また国民に身近な法律サービスが必要なことは審議会の答申を待つまでもなく、わかりきった話です。そのように方向性が明確なことは、いちいち答申していただかなくても、どんどん決着をつけていくべきです。審議会で十分に議論をつくしていただくべきもの、審議会で行うには細かすぎるため党で引き受けるものなど役割分担が必要でしょう。
反町
三権の関係から、司法の独立性を言う声もあるのではないですか?

保岡
司法制度の改革に政治が介入してはいけないという意見はとんでもない。制度改正は国会で行うのです。国民の代表である国会は国権の最高機関として重要です。「自民党には何か下心があるのではないか」と言う人も司法制度改革の議論が始まった当初にはおられましたが、そうではありません。司法制度は、党利党略のような政党の利害によって左右すべきものではありません。日本は大転換のときを迎えているのです。三権の一翼を担う司法がどうあるべきか? 世界一の司法を目指して国民の知恵と工夫を基礎に国づくりをしなければならないとき、国民の代表である国会がまず機能するのは当り前です。イデオロギー対立の時代も終わって、日本の生きる道を国民皆で考えるという時代にあるからこそ、政府・与党として自民党は真っ先に司法制度については取り組みました。その点をぜひわかっていただきたい。



国民とともに考える



反町
司法の在り方を審議するうえで、どのような要素を考慮すべきだとお考えですか?

保岡
まず、外国の司法は文化的背景も含めて徹底的に研究する必要があります。同時に、わが国の司法制度、司法文化を分析して、その特質を明らかにする。「和の精神」、つまり、無用の抗争を避け、できるだけ話し合いによって、人情味ある平和的な解決をはかるということです。それが良い面であるとすれば、一方、悪い面もあります。紛争を隠密利に明確なルールに基づくわけでもなく解決してしまう。そこでは個人が組織に埋没し、権利や尊厳が疎かにされる危険性もあります。よく見極めて、良い面を制度に反映させ、悪い影響をもたらすものを取り除く形で、新しい司法を求めていくべきです。もう一つ重要なのは、世界や日本がこれからどのようになっていくのか、その変化を読むことです。
反町
そのような分析の中から基本理念を明解にして、理論的な筋道を通すのですね。

保岡
過去にも、日本の社会構造全体を変えた時期がありました。明治維新を迎えて近代国家を作ろうとしたとき、あるいは戦後の焼け野原から豊かな民主国家に進もうしたとき。同じように現在、わが国は時代の転換点にあります。これまでは常に欧米モデルがありましたが、今度はそれがありません。先が読めないからこそ、理想や目標を明確にすることが必要です。それこそが司法制度改革審議会の役割です。見えない未来に向かうときは、理念、理想、確とした方向性があればいい。新しい日本はどこへ向かうのか? どういう国是をもつのか? 世界一の司法とは何か? その答えは日本人が知恵と工夫で自ら作る気概を持たなければ、生まれません。役人にすべて依存するのではなく、われわれ国民で積極的に取り組む。国民が政治のリーダーシップ、あるいは専門家と手を組んで良いものをつくる。そういう意思を持っていただきたいと思います。
反町
大事業になりますね。

保岡
2年間では簡単ではないでしょうが、国会の審議でも、衆議院の法務委員会に小委員会を設置しましたので、委員会での積極的・多面的な審議が望まれます。専門委員会もある。各政党も部会をもっていますが、各党単位でもアプローチすべきです。国民の力を結集するため、ヒアリングやシンポジウムを工夫するなど、ありとあらゆる方法で国民の意見や考えを吸収できる運営方法をとりたいと思っています。
反町
自民党も相当、本腰を入れなければなりませんね。

保岡
「21世紀の司法の確かな指針」(報告書)を昨年まとめるときも、二つの分科会を設置し、集中的に議論・検討を重ねました。もちろん、できる限り、国民的視点に立って、各界・各層・国民各位の意見・提言などを参考にさせていただきました。今後は、党の調査会としても、私案として、いくつかの検討チームを設置し、担当者を決めて、精力的に制度改革を推進して行きたいと思っています。その過程で、再度、国民からの意見を拝聴したいと考えています。
 検討チームについては、例えば、

法律扶助制度の充実・強化に関するチーム

知的財産権の法的保護・特許裁判のあり方に関するチーム

司法文化と司法制度の改革に関するチーム

高等教育と法曹教育のあり方に関するチーム

ADR(裁判外紛争処理)などに関する分野やアジアの法整備・協力に関する分野についてのチーム

など、いくつか考えられますが、プロジェクトチームの設置や検討に際しては、関係者の意見をうけたまわり、調整した上で、決定したいと考えています。
 いずれにしても、何か新しい形での検討方法も必要かと思います。自民党内の議員だけではなく、広く国民と議論していく機会をもって、新しい時代にふさわしい司法の在り方を国民と共にもとめ、実現して行きたいと思います。
反町
ありがとうございました。