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自由民主党 司法制度特別調査会報告
―21世紀の司法の確かな指針―

平成10年6月16日 

自由民主党 

(経緯)

  1. 司法制度特別調査会(以下,「調査会」という。)は,平成9年6月12日の発足以来,同年11月11日まで,合同会議を含め6回の総会を経て,同日,「司法制度改革の基本的な方針―透明なルールと自己責任の社会に向けて―」(以下,「基本的な方針」という)を発表した。この基本的な方針において,われわれは,21世紀のわが国社会における司法の役割の重要性を指摘し,国づくりとしての司法制度改革の必要性を訴えるとともに,改革のための具体的事項を明らかにし,21世紀に向けた司法改革のグランドデザインと言うべきものを提示した。

     この基本的な方針に盛られた検討事項について,調査会は,総会の下に2つの分科会を設け,第1分科会は,司法の人的なインフラ整備を中心的なテーマとし,加藤卓二(主査),河村健夫,杉浦正健,浜田靖一,山本有二,塩崎恭久,長尾立子の各議員を構成メンバーとして,平成10年2月18日から5月29日までの間,11回にわたり,第2分科会は,司法の制度的なインフラ整備及び司法と立法の在り方を中心的なテーマとし,太田誠一(主査),小此木八郎,佐藤剛男,棚橋泰文,渡辺喜美,林芳正,金田勝年の各議員を構成メンバーとして,平成10年2月5日から5月29日までの間,9回にわたり,それぞれ検討を重ねた。

  2. 各分科会においては,具体的な問題点等に関して,扱う問題の重要性や専門性を十分に考慮し,以下のような関係機関・各界から幅広い意見を聴きながら,鋭意検討を行ってきた。

    衆議院法制局

    最高裁判所

    法務省

    文部省

    特許庁

    日本弁護士連合会

    第一東京弁護士会法務懇談会司法制度検討委員会

    労政法曹団(自由民主党顧問弁護士団)

    日本司法書士会連合会

    日本土地家屋調査士会連合会

    日本税理士会連合会

    弁理士会

    日本行政書士会連合会

    S経済団体連合会

    S経済同友会

    宮内義彦(オリックス株式会社社長)

    佐々木毅(東京大学教授)

    飯室勝彦(東京新聞論説委員)

    サム・ジェームソン(アジアン・ビジネス雑誌記者)

    佐藤幸治(京都大学教授)

    全国青年司法書士協議会(会長 水谷英二)

    司法書士21フォーラム(世話人 上野義治)

    21世紀政策構想フォーラム政策法学部会(主査 阿部泰隆)

    納得のいく裁判を考える市民の会(山本直子)

    開かれた裁判を求める市民会議(事務局長 熊野実夫)

    司法制度改革懇話会(代表世話人 反町勝夫)

    田中成明(京都大学教授)

    阿部泰隆(神戸大学教授)

    その他

第1 司法改革の視点

  1. 分科会の議論をはじめ,各会から披瀝された意見は,「司法は,安全な国民生活の確保と公正で円滑な経済活動という国家の基礎を支え,活力ある社会を維持するための基盤をなすものであり,今後より一層進展していく社会の複雑・多様化,高度化,情報化,国際化に的確に対応し,公正で適切な解決を与えることによって,わが国が国際社会での信頼を得ながら着実に発展を遂げていくための国家的な基本的インフラでる。」との共通認識の下,三権の一翼を担う司法改革の重要性が明確に示された。

  2. 世界は,今,自由・民主主義そして市場原理という統一的な理念で包まれていく流れの中にある。このように国際化が急速に進展している中にあって,わが国が国際社会と共存し,調和ある発展を図るためには,「透明なルールと自己責任の理念」というグローバルスタンダードに立脚し得る能力と体制を持たなければならない。これを怠れば,さまざまな分野で,ジャパン・バッシングと言われる現象が起こることにつながりかねない。

    これまでわが国においては,国民の美徳とする「和」のコンセプトが,発展と繁栄の構築に有効に機能してきたが,今後は,この精神の美点を活かしつつ,これとよく調和させながら,透明なルールと自己責任の理念という時代の要請を実現していくことにより,訴訟社会の幣に陥ることなく,世界にも誇り得る信頼される司法を築くことができるものと確信する。

  3. また,今後,規制緩和等の諸改革を推進し,自己責任の原則に貫かれた事後監視・救済型の社会への転換を図るためには,その基盤をなす司法の機能の充実強化が必要である。

    すなわち,このような社会にあっては,法律専門家が,市民生活や企業の経済活動に日常的に生起する諸問題について法的助言を与えるなどして,事前又は事後に様々な場面で関与し,紛争の発生を未然に防止するとともに,社会の諸活動が法的ルールに従って行われるよう指導し,それを実現していくことが極めて重要である。この意味において,今後,法律専門家には,高度かつ複雑な法律問題を扱う専門家集団としての活動と,他面において,国民の身近な法律問題を取り扱うホームロイヤーとしての活動が求められることとなる。

    さらに,国民生活の安全の確保という国家の基礎を支えるためには,司法の場において,組織犯罪,銃器犯罪,薬物犯罪その他社会の治安を脅かす犯罪や公正で円滑な経済活動を阻害する経済事犯などの各種犯罪に対して,的確な対応が不可欠であり,また,最終的には,各種の法的紛争について,時代のテンポに即した,より迅速な紛争の解決と人権の擁護,権利の実現が図られることが担保されている必要がある。

  4. このような司法改革は,21世紀の国づくりの重要な基礎となるものであり,また,これを支える国民の意識改革を伴うものでなければならず,この意味で,今日のわが国にとって正に喫緊かつ重要な問題である。この観点から,司法制度を利用する最終ユーザーである国民が真に必要とするその視点に立った,在るべき司法の全体像を構築することが必要不可欠である。


第2 国民に身近で,利用しやすく分かりやすい司法 

  1. 国民に身近な司法

     国際化と規制緩和が急速に進むわが国においては,社会の法的ニーズが飛躍的に増大することが予想され,これに応えていくためには,まず第一に十分な数の法曹が必要とされることは言うまでもない。これを市井の法曹について見れば,市民生活に日常的に発生する問題を解決する身近な,言い換えればホームロイヤーとしての法曹の需要が増大する。また,企業活動に伴う紛争を予防し,法令に適合した企業戦略の樹立のために,企業の法務部等における法曹資格者の活躍が期待されるほか,行政府や地方自治体にも適正な法令等の解釈・運用,法案等の立案のため,また国会議員のスタッフへの登用等のために,法曹資格者の需要が増大することになる。
     また,安全かつ秩序あるルール社会を維持するためには,様々な違法行為に的確に対処し,不法な勢力の存在を許さないことが重要である。その意味で,検察官の役割は重要であり,そのための適切な態勢を整えることが必要である。加えて,行政の中で法律専門家の知識を生かし,法案等の立案担当者等として活躍する法曹の役割も重視しなければならない。
     そして,社会生活のテンポが速まる中で,適正かつ迅速な裁判を求める声は一段と強まっており,民事執行に関する体制の強化など,裁判所の機能を充実することは不可欠の要請である。また,社会の複雑化を反映し,専門分野における法的紛争処理のための司法機能の充実も急務である。こうした要望にこたえていくためには,裁判官を始めとする裁判所の人的態勢の拡充を図ることが必要である。
     以上のとおり,社会のあらゆる分野において,法曹の質と量の強化が求められている。久しく指摘されているとおり,わが国の法曹人口の現状は,三者のいずれについて見ても,先進諸外国に比して圧倒的に不足していると言わざるを得ない。そして,これからの時代が求める法曹をいかにして養成するかという観点から,大学教育における法学教育の在り方やアメリカ合衆国における法曹養成制度であるロースクール方式の導入,さらには法曹資格の付与の在り方についても検討されなければならない。
     さらに,かつて臨時司法制度調査会において協議され,未だ基盤整備がなされていないとされた法曹一元の問題,研修弁護士制度等法曹の継続教育の在り方も検討課題と言える。

  2. 国民に利用しやすい司法

     司法は国民に利用しやすいものでなくてはならないことは言うまでもない。このため,まず第一に,先進諸外国に比して著しく立ち後れている民事法律扶助制度を充実・強化することは,極めて重要かつ喫緊な政策課題である。この問題については,法務省の法律扶助制度研究会が本年3月にとりまとめた最終報告において,現行の法律扶助制度に関し,法律が制定されていないため国及び弁護士会の責務が明確でないなど,制度上や財政上の問題点が指摘されているところである。この研究会の検討結果をできる限り尊重して,法制化及び思い切った予備措置に向けて最大限の努力をする必要がある。被疑者弁護を含む刑事弁護制度の在り方についても,適正な弁護活動による国民の権利の擁護や刑事司法手続全体の在り方との関連等,広い視点から適切な検討がなされるべきである。そして,前記の法曹人口の増加,司法の諸課題の物的基礎となるべき司法関係施設の整備拡充を促進しなければならない。
     一方,国民の法的サービス享受の利便を図るという視点から,弁護士の大都市偏在化の解消を図る必要があることはもとより,弁護士事務所等の複数・法人化を検討し,弁護士過疎の解消や業務提供の安定化・永続化を進める必要があるほか,ワンストップサービスの要請に基づいて,いわゆる総合的法律経済関係事務所の開設についても検討を進めるべきである。さらには,弁護士と,司法書士,弁理士,税理士,行政書士などの隣接法律専門職種との間の協力関係やその在り方等について検討される必要がある。
     また,紛争解決の実効性を確保するために,民事執行制度の充実,倒産処理手続の制度的な整備等の検討を急ぐ必要もある。わが党の部会でも決議されたように,知的財産権関係訴訟など専門技術化,国際化等が著しい紛争事件については,専門家の活用,集約的処理態勢の拡充等の方策が,国際的な水準に立った観点から検討されなければならない。
     さらに,法制度の根幹をなしている基本法について,政策審議・法案立案準備を行う法制審議会の在り方についても,社会の動向・時代の要請等に適切かつ迅速に対処する必要性を踏まえて速やかに対応する必要がある。

  3. 国民に分かりやすい司法

     「透明なルールと自己責任の理念」に立脚した法治社会では,これまで以上に,司法の意義やその役割が広く国民に周知・理解され,国民の生活に結びついた形で機能していく必要がある。その意味で,司法の意義・役割やその重要性,遵法精神等について,広く国民に浸透させる必要性は,今後極めて大きくなっていくと言われなければならない。特に,次代を担う子供たちに対し,その意義を徹底させるよう教育することが最も肝要である。このような視点から,初等中等教育における教育の在り方を真剣に議論していく必要がある。また,他方で,司法への国民参加の在り方(陪審・参審等)についても,わが国の司法の基本に関わる問題であるという視点から,広く国民の意見を踏まえて議論される必要があろう。
     

第3 国際化に対応し世界に貢献する司法

 21世紀の高度情報化社会においては,空間を超えてわが国の社会と国際社会が一つのものとなり,世界と調和し世界から信頼されることが必要である。この意味において,わが国の司法が国際化に対応する必要があることは言うまでもないが,それと同時に,わが国の国際社会における地位に照らして,より積極的に世界に貢献することが求められている。
 近年,国際的な民事紛争を仲裁によって迅速かつ適切に解決しようとするニーズが高まっているが,わが国を仲裁地とする国際仲裁は極めて少ない実情にある。制度的に大きく立ち後れた感のある国際仲裁を活性化させるため,国際仲裁センターの充実も検討すべき課題である。
 また,わが国が国際経済活動の円滑化を積極的に推進するため,諸外国から寄せられている要望に応えて,アジア諸国等への法制度整備の一層の支援は,わが国の国際貢献の在り方として極めて重要なものと言える。
 さらに,グローバル化した犯罪の解決や国際民商事紛争等の解決には,諸外国と密接な協力をすることが大切であり,今後あるべき国際司法共助の在り方をさらに検討する必要がある。
 

第4 三権相互の関係

  1. 国民及びその代表である国会との関係

     21世紀の新しい司法を確立するためには,司法の独立を尊重しつつ,国民主権に基づいた国民を代表する立法府(国会)が,重要な役割を果たすべきである。
     この意味において,司法制度に関する法曹三者協議のによる在り方については,従来のように法曹三者を中心とする論議に止まることなく,国民の意見を十分に反映すべく,われわれが国会において論議を尽くし責任を果たす必要がある。
     また,これまで以上に大きな社会的使命と職務を担う法曹は,従前にも増して国民全体の信頼を得る存在となることが求められる。そのためには,法曹が国民のこの負託にいかに応えるべきか,自らの在り方について十分ま自覚と責任を持つとともに,またそれをいかに促していくかについて国民的な目線で論議する必要がある。
     さらに,財政法上,他の行政庁とは異なる措置がなされていることをかんがみ,裁判所の予算と司法に密接に関連する法務省の予算の在り方についても,その重要性を踏まえた質的・量的な拡充について検討する必要がある。
     なお,最高裁判事の国民審査の在り方についても,情報開示,審査方式の在り方等が議論される必要がある。

  2. 行政と司法の関係

     司法の補完的な役割を担い,かつ,多様な紛争手段の一つとなるものとして,裁判外境紛争解決制度の創設等,行政機関による第三者的な紛争解決機能を検討し,準司法機関,準司法手続の拡充を積極的に進めるべきである。
     また,行政に対する司法審査手続の在り方についても今後の検討課題である。

第5 提言

 以上のように,司法制度特別調査会の幅広い議論を通じ,われわれは,時代の大転換期にあたって,改めて司法の抜本的改革の重要性を強く認識し,政府に対し,次の通り提言するものとする

(1)「司法制度審議会」(仮称)の設置

 21世紀のあるべき司法の全体像を構築していくため,政府において,最終ユーザーである国民各層の意見を幅広く汲み上げて議論する場を設置し,明治以来,また戦後創り上げてきたわが国の司法について,抜本的な検討を行うことが必要である。

(2)司法分野の予算措置に対する格別な配慮

 現在の裁判所の予算は,約3100億円(平成10年度)であり,また全体の予算に占める割合は0.4%と極めて小さい現状にある。この報告で指摘した21世紀の司法の重要な役割を適切に推進していくためには,この小さな規模に止まっている司法関係の予算について,格別な配慮が必要である。

(結び)

 われわれは,憲法施行五十周年を期に,特別調査会を立ち上げ,これまで審検に議論を重ねてきたが,今後は,常設の司法制度調査会として再出発し,残された課題について引き続き検討を重ねていくものとする。

また,政府における司法改革の抜本的な検討に歩調をあわせ,党の方向性を随時打ち出し,その責任を果たしていく決意である。