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緊急対談(財界 98/07/14)
◇出席者
- 自民党・金融再生トータルプラン推進特別調査会会長
- 保岡 興治(やすおか・おきはる)
- 昭和14年5月生まれの59歳。39年中央大学法学部卒,司法試験合格。42年鹿児島地方裁判所に裁判官として赴任。47年衆議院選挙で初当選以来当選8回。自民党政調総括副会長ほか役職多数。
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- 森ビル社長
- 森 稔(もり・みのる)
- 昭和9年8月生まれの63歳。34年東京大学教育学部卒。34年森ビル設立と同時に取締役。39年常務,44年専務を経て平成5年1月社長に就任。現在不動産協会都市再開発委員会委員長などを務める。
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- 司会
- 本誌主幹 村田 博文
日本政府の後手,後手に回る対策が円安に拍車をかけ,ついには日米協調介入による安定の道を求めることとなった。それと引き替えに不良債権処理の早期解決を約束させられた形になったが,はたして有効な手は打てるのだろうか。このピンチに政治と経済が果たすべき役割を保岡興治,森稔両氏が語り合う。
受け皿銀行作りの前に肝腎の銀行がやるべき事
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急激な円安は六月十七日の日米協調介入による円買い・ドル売りで何とか歯止めがかかりましたけれども、その底流にある日本の景気低迷や不良債権処理の遅れの改善をアメリカ側から迫られることとなりました。この不良債権の処理と土地の流動化について、いまどんな手を打っていけばいいのか、官民を代表するお二方に語り合ってもらいたいと思います。まず、保岡さんは自民党の金融再生トータルプラン推進特別調査会の会長としてこの問題の解決にあたってきたわけですが、与党の方針としてはどんな方策を考えていますか?
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- 保岡
- 昨秋の大型銀行の経営破綻、アジア各国の経済危機などがきっかけとなってたいへんな金融不安や経済の先行き不安が生じたことから、経済対策、金融安定化対策を一刻も早く打ち出さなくてはならないというので、今年の三月二十四日に総額十六兆六千五百億円に及ぶ「総合経済対策」を自民党が決定、四月二十四日に政府が発表しました。その準備段階として三月末には私がこの予備調査会の会長を仰せつかって同僚議員や関係省庁と協議を重ね、不良債権処理のトータルプランとして二兆三千億円の予算が総合対策の中に位置づけられることとなりました。
このプランの特色は、不良債権を銀行から切り離して、入り口から途中の段階として権利関係を整理したり、回収を容易にするためにいろいろな工夫を施したり、あるいは出口として不良債権の多くは三大都市圏に集中しているのですから、都市の再生や街づくりなどに有効利用することを促進する、そういったことを総合的、体系的にまとめたものであるという点にあるんですね。その中で回収に注意を要する債権、いわゆる第二分類の不良債権の解決手段として出てきたのが受け皿銀行構想であり、これが画竜点晴の最後の課題だと思っているんです。
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遅きに失した感もある、という意見もありますが・・・・・・。
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- 保岡
- この問題はお医者さんと患者の関係のようなものだろうと思うんですが、入院してもらって手術や適切な処置を行う準備が調わないのに受け皿銀行の構想を先に具体化することは、かえってみんなの不安をあおることになるのではないか。金融監督庁というお医者さんが発足して、患者の病状を正確に把握し、どう処置を施せばいいのかきちんと決めたうえで受け皿銀行構想を具体的に内外に示す。そのことによって、実体経済が安心しながら金融再生と日本経済の活力を取り戻す展望を得ることができる、というふうに持っていきたいと思っているんですよ。
日本の製造業は世界一であり、日本は経済的にも立派な国なのですから、金融も世界の一流になるよう再出発し、必ずそれは天に響くという確信のもとに国民の英知を結集して具体的な再生の道を実現していく。そういう方向をめざして、われわれはいま一所懸命に頑張っているところでして、七月の上旬、できるだけ早い時期に具体的な内容を内外に明らかにし、みなさんに安心していただきたいと思っています。
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森さんは経済人、デベロッパーとして経済活動の第一線にいるわけですが、どんなことを感じますか。
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- 森
- ここ数カ月の間に急速に事態が進展したというか、対策の効果が出てきているというふうに思いますね。失礼ながら、いままではどちらかというと口先だけの話が多いという感じだったのですが、十六兆円余の総合経済対策やそのあとの不良債権処理、あるいは土地の有効活用対策などの方向性を打ち出すにあたっては、まさに”電光石火”と言ってもいいほどの速さでしたから、おおいに評価できますし、期待もしているんです。
ただあえて言わせていただくなら、その十六兆円余の中身が、最初に出てきたときには科学技術の振興とか大都市のインフラ整備などに重点投入されると聞いていたのに、実際には在来型の公共投資のほうに流れていっていて、いささか期待はずれの感があります。しかしながら、住都公団や民都機構の中に、土地有効利用事業推進本部とか、土地再生、再開発のための支援センターをかなりの規模で設置するような話も出てきていますから、その点で期待したいと思っています。
縦割り行政の弊を捨ていまこそ政治が主導権を
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今度の協調介入は非常に効果があって、すぐに1ドル=百三十七円ぐらいにまで円が急騰しました。それは言うまでもなく、今度は必ず日本が相当な金融安定化策、財政再建策を打ち出すだろうとの期待があったからでしょう。しかし、こういうことについて、アメリカから言われるのも情けないことですから、みずから改革して実行してもらいたいものです。
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- 保岡
- ええ。今度のトータルプランの策定でも、役人にやらせておいたらおそらく三年、四年はかかるでしょうが、政治家みずからが問題を戦略的に組み立てて具体化し、各専門の役人と連携したからこそ、三週間ほどでできたわけで、同僚議員たちも国民のニーズとわれわれとの連携が大事だということがわかった、と喜んでいました。また、その過程で当選一、二回の若手の人たちの中に、センスがあり、問題処理の能力の高い人たちがいることがわかったこともよかったと思います。縦割りの行政では問題を体系的にとらえて総合化していく作業はなかなかできませんから、今後も政治家がリーダーシップをとってこうした作業を進めていかなければいけないと考えています。
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森
- 先日、ある会合でグレーゴリー・クラーク(多摩大学学長)さんが、いままで日本は経済一流、官僚は二流、そして政治は三流だといわれていたけれど、いまや評価は逆転してきた、と言っておられました。本当に今度の働きは評価されるべきだと思います。
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政治と経済は密接不可分な関係にあるわけですが、それぞれ相手に対してどんなことを注文しますか。
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- 保岡
- 政治家が主体となって政策なり国の方向性を決めていくという新しい政治の流れに、自民党、あるいは政治全体が方針を切り換えて、競い合っていかなくてはならないのではないか。正しい政治のあり方は何かをはっきりさせないうちに対立軸を求めようとしても、抽象的になってしまい、権力闘争みたいな形になって国民の信頼を失ってしまうと思うんです。だから、財界にも、そういう新しい政治に目的別に支援をしていただきたい。国家国民のために、政治の大切さ、使命を支えるために応援をしてもらいたいんですよ。
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森
- 商法の改正や定期借家法の新設など、一部は継続審議になったけれども今度の一連の議員立法は評価できるし、相当に世論も喚起したと思います。官僚は決められた範囲のことを着実に実行することには優秀だけれども、方向転換はできませんね。いままでは政治家が官僚をブレーンにしてきたようなところがありましたが、それがいまやっと成熟したというか、希望が持てる状況になってきたと言えるんじゃないでしょうか。財界のほうも、そんな政治の動きを見て、考えをおおいに改めていかなくてはならないと思います。
都市計画道路の整備等で東京の街を活性化せよ!
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戦後、アメリカのF・ルーズベルト大統領は経済を立て直すために、有名なニューディール政策をラジオを通じて直接、国民に訴えました。そういう官民一体の頑張りを醸成させるべく、政治がもっと情報発信すべきではないでしょうか。
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- 保岡
- いわば肺炎にかかっている状態の金融機関がビックバンという国際競技会に出ていくような状況にある、ということを国民の方々も真剣に考えていただきたいし、確かにバブル期にはいろいろな間違いもやってきたが、これをつぶしてしまったら実体経済に大きな影響を与えることになる、という点もわかっていただきたいと思うんです。店を開けたままいかに健全な金融に再生させていけばいいのか、国民が心を一つにして事態を乗り切っていかなければならないわけで、そのためには政治というものがもっとわかりやすく、やっていることがはっきりと国民に理解してもらえるようなアナウンス、メッセージを伝えていくことがとても大事だろうと思います。
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森
- これからの日本におけるニューディール政策とという点を考えてみると、いまはいいチャンスであると思うんです。地価は暴落しているし、金利も安い、また人々の防災意識も非常に高まっているのですから、この際は、いまの資産デフレの原因となっている大都市、とくに東京の都市計画道路の未完成部分を、一気に全部完成させたらどうでしょうか。しかも、総合経済対策とは別枠でやる。計算してみると、四年前には総土地費が十兆円もしたのに、昨年なら七兆円、今年なら六・六兆円ですむんですからね。六・六兆円という数字は、債権買取機構に投入される金額と変わりませんよ。
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公共事業については、インフラ整備の遅れている地方に重点が置かれがちなことから、都市の″富″を地方が収奪していると批判する向きもあります。それに対し、地方は地方で、労働力を東京など都会に供給してきたはずと反論する。
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- 森
- もちろん、これまでの二、三十年間は、現実的には東京で生んだ鶏の卵を地方にまいてきたという事実がある。しかし、いまや東京の鶏のほうが死にそうになってしまっているのです。ここで東京を救わなかったら日本も救えなくなる。ひいてはアジアの国々も救えなくなる。そう理解してほしいと思います。
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保岡
- やはり地方はまだインフラ整備も遅れているし、便利な住みやすい環境をつくりたいという気持ちもわかる。また、地方経済がそうした公共事業によって底支えされている切実な点も理解できます。けれども、日本の経済が衰退してしまったら、もちろん地方の繁栄もないわけで、日本経済の活性化のためには都市の再生とか街づくりというものを、非常に重要なテーマとして、国民全体の共通の認識にすべきではないでしょうか。だから、それを対立ととらえるのではなく、地方と都市とをどう調和して豊かで住みやすい日本をつくっていけばいいのか、分かりやすく示す必要がある。
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森
- 東京の都市計画道路はだいたいまだ半分ぐらいしかできておらず、このペースでいけば百年以上かかるといわれているんです。これはニューヨークの四〇%、ロンドンの六〇%程度であり、やはり十年二十年で実現するというようなことを前提に、計画していくべきではないか。都心部の計画を実現しても、まあ一〇%ぐらいしか改善にならないけれども、見通しが立たない状態からは開放されますね。
これは不良債権となっている土地とは違って現実に利用されて活動しているのですから、それを明け渡せば、今度行くところの人もまた別のところに移ってと、いくえにも買い換え需要を生み、即、土地の流動化につながっていく。しかも沿線の再開発はほおっておいても進んで行くでしょうから、何倍もの投資効果、誘発効果が期待できると思います。うちの試算では二十三区内に七百八十ヘクタールの都市計画道路の未実現部分がありますが、この土地費と道路造成費、また立ち退き料等で約十一兆円かかるとみられますが、五年でやるなら年に約二兆円。それを計画的にやると言うだけで、相当な誘発効果が出てくるんじゃないでしょうか。
- 保岡
- この問題は限られた財源の中で都市と地方との環境をどう調和させ、将来をどう共有できるかという点や、コスト対税収効果の問題、あるいは事業主体に民間の活用を生かすなどの、複雑に関係してくる総合対策が必要になりますね。そういった高い次元から少しずつ具体化して対策が下に降りてくるとしても、それが体系的な戦略プランでなくてはならないはずです。
これについて役所に答えを出せといってもできるわけはなく、政治が決めるしか決定方法はないのではないか。縦割り行政を克服して、迅速、的確な総合プランを政治が描き、決断していく。そういう流れをつくって挑戦していかなければ、とてもこうした大きなことはできません。自民党は数年のうちに変わっていくと思いますし、もっと大胆なことが決定できる政治に変えていかねばと考えています。
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