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株主代表訴訟制度の見直しと監査機能の強化

<CONTENTS>

1.株主代表訴訟の見直し
2.企業改革と商法改正
3.自民党商法に関する小委員会
4.監査役監査機能充実のための商法改正に関する要望




1.株主代表訴訟の見直し

平成9年8月26日

保岡興治

 

1.基本的な考え方

○株主代表訴訟がコーポレート・ガバナンスの重要な手段であることに鑑み、今回の改正によりその機能を減殺させないことを大前提とする。

○日本経済の国際化にあたっては、経営者の積極的な挑戦や活力が不可欠であるので、株主代表訴訟が制度の目的を越えて必要以上に経営マインドを萎縮させる要素については改善する。

○明文化されていないため、判例が分かれたり、一般に解釈が明確でないことについて、これを法的に解釈し、株主代表訴訟制度の法的安定性を確保する等、制度の機能を高める。

○監査機能の強化の改正と整合性をもたせ、一体として立法化する。

 

2.具体的な改正項目

○株主代表訴訟を提起できる者は、訴訟の原因となった行為があった時の株主とする。

○会社は、一定の場合には被告取締役に補助参加することができる。

○監査役の考慮期間は、60日ないし90日とする。

○取締役の応訴費用について、会社による立替えを認める。

○取締役が勝訴した場合には、会社による応訴費用や役員賠償責任保険の保険料の負担を認める。

○取締役の会社に対する責任について、定款の定め又は株主総会の特別決議による減免を認める。ただし、取締役に忠実義務違反、犯罪行為、故意又は重過失があった場合は、例外とする。

○前記減免の可能な取締役の会社に対する責任は、会社と取締役の委任契約により、短期の時効や取締役の死亡により消滅することができるものとする。

○前記減免のできない取締役の会社に対する責任については、5年程度の短期消滅時効を法制化する。

○取締役の経営判断の原則を法律に明定する。

○株主代表訴訟における和解を認め、所要の法的整備を行う。

 

2.企業改革と商法改正

1997年8月18日号

『金融財政事情』

 

(1)次期通常国会に代表訴訟制度見直しの商法改正を提案する

 日本経済国際化のため政策判断で経営者の萎縮を取り

 除く

 

与党商法改正プロジェクト・チーム座長

衆議院議員

保岡興治

 

●最近一連の企業不祥事に対する厳しい再発防止対策や企業体質の転換が強く求められているが、日本版ビックバンに象徴される日本経済の国際化を進めるにあたっては基礎基本として日本企業の経営マインドが重要であり、経営者のリスクに対する積極的な挑戦や活力が不可欠である。したがって、いま求められている会社の自律的な経営の健全性のチェック機能を改善・強化する工夫を具体化しつつ、一方でその強力な手段である株主代表訴訟も、制度の目的を越えて必要以上に経営マインドを萎縮させてしまう要素があれば、むしろこの際早急にその改善策を具体化することがきわめて重要である。当面行うべき監査機能の強化策などとともに、われわれが株主代表訴訟の見直しを次期通常国会に商法改正として提出する理由はそこにある。問題は単に法律専門家の間で法律技術的に利害関係の調整をしてより良い法制を目指せばよいというだけではなく、日本経済にとってどのような問題や時期を重視し、どのようなインセンティブを与えればよいか、今回目指す法改正もすぐれて政策的政治的判断にかかる要求があると考えている。

 

経営者の積極的な挑戦が大切

 日米構造協議におけるアメリカ側の指摘を受け、93年の商法改正で請求額の多寡にかかわらず、8200円の費用で株主代表訴訟を提起することが可能になった。また、バブルの崩壊その他戦後日本経済のさまざまな問題が一気に噴き出すような形で、証券事件、住専など倫理に反するような企業の行動が露見するようになった。

 そこで、それまでほとんど利用されてこなかった株主代表訴訟制度が一気に利用されるようになった。訴訟係属件数は昨年末で188件と、絶対数としてはそれほど多くはないが、その急増や請求金額が目をむくような巨額なものになったり、濫訴や不適切な訴えに対する応訴の負担など、制度の利用がほとんどなかったときにはみえなかった制度の不備欠点がいろいろと明らかになるとともに、企業家に対してかなり大きなインパクトを与えている。

 それが企業の経営を健全化する方向で強力なインセンティブとして働くだけならよいのだが、一方でリスクの高い経営への挑戦の意欲が抑制され経営が無難を旨とするようになって活力を失うようになっては、日本にとって大問題だ。

 国際化のためには透明なルールと自己責任を大切にする健全な経営が求められるが、一方で経営者の積極的な挑戦が重要になる。それらは日本経済にとって大転換期を乗り切る車の両輪にあたるものである。

 

いままでのペースではやっていけない

 株主代表訴訟制度の改善はしばらく様子をみてからでいいのではないかという声もある。たとえば経営者の責任を判定するにあたっては、判例はもっぱら経営判断には踏み込んでいない。誰がみても取締役が責任を負うべきことが明らかな、とんでもない判断をした場合とか、違法な行為が行われたときしか原告株主は勝訴していないから、株主代表訴訟の弊害はなく、改正は必要ないとの意見もある。

 しかし、さきにも述べたが、多くの企業家が請求額も巨額な株主代表訴訟の頻発に萎縮し始めているのも事実だ。裁判所の解釈判断は法律専門家の間では通用するものであっても、一般の人にとっては法律文言上明確にすることが重要である。

 そうでなければ基準が不明確なために、無用の訴訟が頻発したり経営者がリスクのある行動をとらなくなったり、濫訴に対する負担が重くなるなど、大きな社会的リスクやコストが発生することになろう。やはり、法律は裁判所の解釈に期待するよりも、可能な限り明確に規定することが大切だ。

 

会社に拒否権を認めたり少数株主権にすべきではない

 現行制度の問題点は、以上に尽きない。

 まず、株主代表訴訟の原告となる資格についていえば、取締役が違法・不当な行為を行った時点の株主でなければ代表訴訟を起こすのは理論的におかしいということがある。なぜなら、取締役の行為によって直接損害を受けた株主にこそ訴権を与えるべきだからである。そこで、この点の改正が必要と考えている。

 一方、原告となる資格として1株・単位の株式を保有しているだけでは足りず、発行済株式総数の1%の保有を条件とするなど代表訴訟提訴権を少数株主権にすべきだという意見もある。しかし、その是否は理論的に厳しく議論が分かれているし、代表訴訟の提訴権を少数株主権とすると明らかに代表訴訟にブレーキがかかってしまう。

 この時期に会社の適法性・経営の健全性を確保する代表訴訟の力を減殺しないようにすることは、われわれの株式代表訴訟見直しにあたっての大前提であるので、この点は今後の検討課題にしたいと思う。

 

会社の訴訟支援を認める

 次に、株主代表訴訟は、まず監査役会に提訴を請求して、それが認められない場合に初めて提起できるわけだが、会社に提訴請求してから代表訴訟を提起するまでの監査役の熟慮期間は現行30日間である。これは、監査役が調査・判断する期間としては短すぎる。そこで、熟慮期間を60日、あるいは90日にしてもいいのではないかと思っている。そうしたからといって、代表訴訟が起こしにくくなるものではない。 

 また、アメリカでは社外取締役によって構成される訴訟委員会が代表訴訟の拒否権をもっている。そこで、日本でも監査役なり監査役会が取締役を訴えるのを適当でないと判断したときに同様の拒否権を与えるべきだとする考えもあるが、いま、日本の監査役は建前はともかく、実態として企業チェックの機能を十分に果たす力や体制をもたないとの批判が非常に強い。

 したがって、今回目指す当面の改正では監査役に拒否権を与えることまでは考えていない。ただ、監査役が訴えを不適当と判断した場合には、会社の経営が健全で取締役に違法・不当な行為がないことを株主や社会に明らかにして会社の信用を維持するために、会社が取締役の側に補助参加し訴訟支援をすることを認めるべきである。

 会社の取締役に対する請求権を会社に代位して行使するのが株主代表訴訟の基本的性格であるとする見地からは、会社が取締役の側に立って補助参加することは否定されるのだろう。判例は分かれているが、1株主と裁判所だけで企業の経営の健全性をチェックするという訴訟の性格を中心に考えれば、さきにも触れたとおり、会社であっても被告取締役とともに重要な利害関係をもつのだから、会社の補助参加を認めるのは当然だと思う。

 また、取締役の応訴費用については、取締役が勝訴することを条件に会社が負担することも認めてもかまわないだろう。この点は、現行法でも認められるとの考え方も強いと思う。役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料を会社が負担することも、当然許される。

 したがって、会社の被告取締役への補助参加、取締役の応訴費用等の補償やD&O保険料の会社の負担などは一定の条件のもと明文でこれを認めるべきであると考えている。

 

遺族の負担に工夫が必要

 株主代表訴訟は、GHQの指示により1950年の商法改正で導入された。そのときに、取締役の会社に対する責任は全株主の同意がなければ減免できないとされた。取締役の責任を事実上解除できないようにして、代表訴訟の実効性を担保にしたわけだ。

 しかし、責任が重大な場合はともかく、通常の取締役の責任は株主の多数の決するところに従ってもいいのではないかと思う。どんな責任も全株主の同意がなければ減免できないというのは、明らかに行過ぎである。たとえば、長年会社の発展に大きな貢献をした取締役に対する責任を特別決議で減免するなどの道を認めてよいと思う。

 また、取締役に対する損害賠償責任といっても、遺族にまで責任が及ぶのは適当ではない場合もいろいろ考えられる。もちろん、代表訴訟が提起されることが最初からわかっていれば、相続を放棄するなり限定承認することも可能だ。

 しかし、相続が開始したあと事件が発生して突然応訴を求められ、抽象的な損害が裁判という形で具体化し、巨額の損害賠償責任を遺族が負わされるのは、会社の経営の健全性を担保する制度としては趣旨を越えている。

 したがって、取締役の犯罪行為や違法な行為、会社を裏切って私腹を肥やすなどの忠実義務違反、故意や重大な過失による責任以外の責任については遺族の責任を含めて、事情によっては、株主総会の特別決議で減免できるようにすべきで、改正の重要なポイントと考えられる。また、重大な責任についても比較的短期の消滅時効を工夫する余地もあると思う。

 そのほか、現行法で明確になっていない代表訴訟の原告株主と被告取締役との和解の制度もきちんと整備したほうがよいと考えている。

 

来年の通常国会に法案を提出

 以上のように、今回目指す改正は当然のことながら基本的に株主代表訴訟制度の企業健全化のインセンティブやチェック機能をいささかも減殺させないことを大前提とする一方で、企業マインドを萎縮させないような工夫とそのために法律を明確にすることをもう1つの柱としている。

 そこで、この秋ごろには案を明確にし、来年の通常国会に提出できるような各界各層、あるいは法制審議会などにもご検討いただき、広くご意見を賜って法改正を進めてゆくつもりでいる。

 ただ、これはコーポレート・ガバナンス全体の改正の一環として行うことが、党(自民党)として決定されている。そこで、監査役機能強化に関する制度改正など、自民党商法小委員会が進めているコーポレート・ガバナンスについての当面必要な改正と併せて、実施されることになる。

 一方、株主総会のあり方、取締役(会)のあり方、監査役(会)のあり方など、総合的にコーポレート・ガバナンスや経営の効率化を全うできるための組織や制度の根本的な見直しも必要だ。そうした抜本的な改正は3年ぐらいをメドに、政府として法制審議会に諮問し答申を求めるべきだと思う。

 そして、会社内部でチェック機能が十分に果たせる体制ができた場合には、アメリカのように会社に代表訴訟の拒否権を認める余地も考えられるし、濫訴防止の観点から代表訴訟の原告適格を見直す検討もされるべきと思う。

 現在世界は産業革命以来2世紀ぶりに訪れた情報革命により、自由と民主主義と市場原理という1つにつながる理念で包まれていくきわめて急激な大転換期にある。企業環境も急速に変化しグローバル化していく。企業法制もいままでとは違ったスピードと、単なる法技術的な利害調整のみならず経済政策的な迅速的確な政治判断が必要とされる時代となっていると思う。

 立法府にある者として関係者の皆様のご理解をいただきながら、責任を全うして参りたい。

 

 

(2)監査役会の機能強化と職責強化を一体として実現すべきだ

 改革は日本の企業文化を変える

 

日本監査役協会会長

新日本製鉄常任監査役

大森 茂

 

●日本監査役協会は7月29日、自民党商法に関する小委員会に対して「監査役監査機能充実のための商法改正に関する要望」を提出した。同協会として体系的な商法改正案を提示するのは、今回が初めてだ。大森会長に「なぜいま監査役なのか」を聞いた。

 

監査役によるチェックが現実的

――日本のコーポレート・ガバナンスはどのような状況にあると考えるか

 金融証券のスキャンダル、そして日本版ビックバンを起こさなければならないほどの国際化の遅れはもはや臨界点に達している。現状を放置すれば、日本の企業システムに対する国際的な信認は失墜する。この際、コーポレート・ガバナンスをしっかり確立しなければならない。

 当協会は、世界に通用し、かつ日本独自のコーポレート・ガバナンスをつくり上げることを提言する。つまり、グローバル・スタンダードと日本の法律文化の両方にかなう制度が好ましいということだ。コーポレート・ガバナンスのための基本的な存在としては、株主総会、取締役・取締役会、監査役・監査役会がある。なかでも、現実性の点からみて、監査役制度の充実・強化がベターだ。

 監査役会が導入されたのは3年前だが、まがりなりにも定着している。ところが、取締役会においては、30人から40人も取締役がいる会社がざらにある。取締役会を改革するには、取締役の数を減らすところから始めなければならない。また、社外取締役を登用して、監査役員(ディレクター)と執行役員(オフィサー)を分けることも必要だ。

 これらの改革は、日本のこれまでの企業文化とはやや別のところにある。切り替えるためには、相当の期間が必要だろう。国際化時代に入った以上、効率的な経営を進めて国際競争力をいかにつけるかが本当の課題とならなければならない。いくら適正・適法経営を行っても、効率的な経営を実現しなければなんにもならない。ところが、いまはその前段階にとどまっている。

 したがって、われわれはコーポレート・ガバナンスの問題を速やかにクリアして、早く次のステージに移る必要がある。2、3年内での解決を目指すとすれば、やはり現実性のある方法をとらなければならない。

 

監査役の職責強化を要望

――7月29日に自民党に提出した要望の内容は

 監査役会の機能強化と監査役の職責強化の両方をパッケージにしている点が、今回の要望の眼目である。自らの監査の質を向上させることなしに、権限強化を要望しても世の中に通用しない。たとえば、第一勧業銀行の監査役は先の株主総会で、取締役の義務違反はなかったと報告している。ところが、実際には多くの取締役が逮捕されているわけだ。もはや、「通例の監査方法では発見できなかった」ですむ話ではない。「通例の監査方法」を反省しなければならない時期がきている。そこで、権限強化に加えて、自分たちの仕事より厳正に遂行していくことを要望したわけだ。

 まず、監査役会の機能強化について説明する。

 第1に、監査役会を協議機関から意思決定機関に移行させる。これにより、監査役会による組織的な監査を進めていく。監査役は独任制だといわれているが、それだけでは企業不祥事に際して有効に機能しえなかった。独任制は「1人でやっているからチェックできない」との責任逃れにもつながる。やはり、組織的に監査したほうが効率的だし、より突っ込んだチェックができるとの考えだ。

 第2に、監査には第3者性が強く要求されるので、社外監査役は原則として複数選任することとする。さらに、現行法では当該会社出身の役員・従業員でも5年間会社から離れていれば社外監査役をして認められるが、身内を社外者に含めることをやめるようにする。社外監査役を過半数にしろという議論もあるが、監査役が3人の会社であれば自動的に過半数が社外監査役となる。一方、大きな会社であれば監査役が8人もいるケースがある。それに対しては、リーディング・カンパニーとしての立場を心得て、法の精神を汲み取ることを期待するのが適当であると考えている。

 第3に、監査役会は一体として監査業務に取り組むことになるので、監査役の選任や任期途中の辞任には監査役会の事前の同意が必要とする。監査役会が監査役の人事に関与することによって、経営陣からの独立性は飛躍的に高まる。

 こうした監査役会の位置付けから、いくつかのことが派生する。

 まず、組織的な監査をしようとすると、監査スタッフの充実が必要になる。次に、代表訴訟との関係で、監査役会がアメリカの訴訟委員会的な機能を果たす素地ができ上がる。さらに、社外監査役の人材確保策が必要になる。

 次に、監査の品質を向上させるための方策について説明する。 

 第1に、監査の品質のミニマムラインを確保するために、監査基準を法制化する。どのような事項を対象に、どのような手続で、どのように判断すべきかといった監査役の具体的な職務内容を法令で明定するわけだ。

 第2に、監査報告書に加えて、より具体的な監査状況のディスクロージャーを進める。これによって厳正な監査の実施を担保する。

 以上の改革を実現すれば、経営のチェック機能は格段に向上し、企業の信認が回復し、市場が公正に機能することに貢献できると考えている。

 

違法行為は100パーセントアウト

――株主代表訴訟に対する監査役会の位置付けは

 監査役会による組織的監査の有効性を実際に示し、その第3者的公正さが認知されるようになれば監査役会による提訴の当否の判断はいままでよりずっと重みをもつようになるし、裁判所もそれを最良の判断材料にするだろう。

 ただ、監査役会の判断が問われるのは、取締役の経営判断が問題になっているときだけだ。最近の事件のように違法行為が問題になっているケースは100パーセントアウトだ。その場合に、監査役会が取締役を訴えない理由を説明するのは困難である。なぜか監査役が違法行為を行った取締役を訴えるケースをあまり聞かない。監査役会の位置付けをはっきりさせることが、状況を変える早道だ。

――不祥事が発覚するたびに代表訴訟が起こされる状況をどう考えるか

 株主代表訴訟には、会社の損害を補填させる機能とともに取締役の不正な行為を防止する機能がある。株主権限を確立するうえで代表訴訟提起は当然のことであり、コーポレート・ガバナンス上、有効な措置といえる。

 

 

(3)代表訴訟改正も監査役機能強化も企業システム国際化の一環である

 市場は意識変革を待ってくれない

 

経済団体連合会常務理事

中村 芳夫

 

●コーポレート・ガバナンスの議論は、企業システム国際化の一環として理解できる。国際化した資本市場は、企業に株主を重視した経営への転換を求めているからだ。当面、経団連は自民党内での検討に対応し、監査役機能強化と株主代表訴訟について意見を述べていく。

 

企業システムの国際化が根本問題

 橋本首相が昨年提唱した6大改革は行政改革、金融システム改革、財政構造改革などの分野で具体案が出され、着実に進行している。その基底には、日本経済が世界の流れに追いつき、グローバル・スタンダードに対応する必要性の自覚がある。

 われわれも同様の意味で経済の基本法たる商法のあり方についてかねて問題意識をもっていた。ところが、基本法であるために商法の改正はなかなか進まない。半面、経済の実態は非常なスピードで変化をしている。

 そこで、われわれは1月末から保岡議員、太田議員はじめ自民党法務部会の関係議員と懇談し、経済の実態に合わせた商法改正を強く要望した。われわれの要望はしっかり受けとめられ、議員立法という形で商法改正に取り組んでいただくことになった。

 なかでも、さきの通常国会ではストック・オプションと自社株利益消却の弾力化が取り上げられた。株主代表訴訟の改正も、その流れの一環として議論されていると認識している。

 一方、コーポレート・ガバナンスも、世界の流れにどう対応するかという課題から当然出てくる問題だ。そこで、自民党は今回、株主代表訴訟とともにコーポレート・ガバナンスについて検討することになったと認識している。

 われわれも、日本の企業システムをグローバル・スタンダードにいかに近づけるかという大きな問題の一環として、コーポレート・ガバナンスと株主代表訴訟改正を同時に検討することが妥当であると考える。

 

市場は株主重視を強制する

 コーポレート・ガバナンスを考える際の出発点は、ステークホルダー(企業をとりまく利害関係者)の利益をどのように調整するかということだ。

 ステークホルダーには株主、従業員、消費者、取引先、銀行、地域社会などがある。彼らは、商品市場、資本市場、労働市場などそれぞれのマーケットを通じて企業と結びついている。したがって、コーポレート・ガバナンスにおいてどのステークホルダーが重視されるかは、どのマーケットの力が強いかによって決定される。

 日本では従来、労働市場が従業員重視の考え方を強いてきた。アメリカでは、資本市場が株主重視を要請している。日米欧のコーポレート・ガバナンスの違いは決定的なものではなく、マーケットの力が作用した結果として生まれた相違にすぎない。

 ところが、経済の空洞化を避けるために規制緩和と国際化を進めた結果、日本の資本市場は変貌を遂げた。新しい資本市場は、株主重視の経営をするよう企業にシグナルを送っている。これを無視すれば、企業の資本市場からの資金調達はむずかしくなる。

 そこで、ステークホルダーのなかでも株主のウェートが当然高くなる。それは人為的な現象ではなく、市場の力が求めた結果である。ただ、雇用市場も依然として重要であり、ステークホルダー間の利害調整を忘れてはならない。

 

監査役の機能強化を提言する

 では、株主重視の方向で、日本の企業システムをどのように改革すればいいか。自民党は7月8日の論点整理で、監査役の機能強化という答を出した。

 アメリカでは通常、多数の社外取締役を含む取締役がCEOをはじめとする執行役員を監視する機能をもっている。ドイツでは監査役会が執行委役員(取締役に相当)を選任し、経営を監視している。

 一方、日本では、ほとんど社内の執行役員から成る取締役会が代表取締役の業務執行の監視機能を負わされている。ただ、業務執行機関が経営を監視する仕組みはワークしにくいので、監査役も取締役の職務執行の監視機能をもつ。ところが、監査役もときに機能しえない構造上の問題があるために監査役制度を改善しようというのが今回の議論だ。われわれも、それが妥当だと考える。

 確かに、法律を変えなくても経営者の意識変革だけでコーポレート・ガバナンスを改善することは可能だ。しかし、不祥事への対応を含めて、市場はそれを待ってくれない。法改正によって最低限のチェック機能を確保する必要がある。

 その方法としては、いままでの商法改正の経緯を考えれば、監査役機能の強化がより現実的だ。ソニーや日産のような取締役会の改革は、企業の自主的な選択に委ねるべきである。

 経団連では7月24日の東富士フォーラムで、監査役機能強化の方向でコーポレート・ガバナンスの検討を進めることで意見の一致をみた。これを受けて「コーポレート・ガバナンス特別委員会」(座長・片山哲也コマツ会長)が設置され、監査役機能強化の具体的な方策について検討を進めている。

 8月5日に特別委員会の第1回会合を開き、監査役機能強化の必要性を再確認した。今後、9月4日の第2回会合と8日の会長・副会長会議で議論する予定だ。

 また、法制審議会でも7月2日にコーポレート・ガバナンスに関する議論が行われている。今後も法制審議会で同様の議論が行われるとすれば、そこでも経済界の意見を述べていく。

 ちなみに、5日の特別委員会の会合では「社外監査役を複数選任すべきだ」とか、「会社出身者を社外監査役から排除すべきだ」との意見があった。ただ、それらは正式な合意を得た意見ではない。

 

代表訴訟改正の要望は従来どおり

 株主代表訴訟については、われわれは95年から毎年9項目の規制緩和を要望している。残念ながら、法務省からはゼロ回答しかいただいていない。

 93年改正で手数料が訴額にかかわらず8200円となったことは、代表訴訟の機能が損害の回復から経営の健全性確保に移行したといえる。

 株主代表訴訟制度が経営に緊張感を与えていることの意義は、われわれもよく認識している。しかし、いまの制度は健全性確保という目的に照らして、行き過ぎたものとなっている。取締役個人やその遺族に何千億円もの損害賠償を求めることが、経営の健全性確保に資するとは思えない。やはり請求額には一定の上限を設ける必要がある。

 また、代表訴訟に対しては、取締役が個人で対応せざるをえない。担保提供命令の制度があっても、取締役がいわれのない訴訟に巻き込まれる可能性がある点は変わらない。

 その前に、このような訴訟を抑止する手段があって然るべきである。それが、提訴権の少数株主権(1%あるいは300株以上)化や監査役会の判断の介在であるわけだ。

 1人の株主が代表訴訟を提起して会社の経営に悪影響を与えることが、本当に株主全体の利益になることなのかをよく考えるべきだ。9項目の規制緩和は、これらも引き続き要望していく。

 マーケットはコーポレート・ガバナンスとともに、経営の効率化をも企業に要求している。したがって両者は並行的に進めていく必要がある。

 

総会制度にも問題あり

 コーポレート・ガバナンス特別委員会は当面、自民党による次期通常国会での商法改正に向けて、監査役機能強化と株主代表訴訟制度の改善に関する検討を進めると聞いている。さらに、取締役会のあり方、株主総会の見直し、会計監査人制度の強化と情報開示についても議論を行っていく予定だ。

 とくに、株主総会については、なぜ利益処分をはじめとして議決案件がこんなに多いのか、委任状を得た段階で可決されるのは明らかなのになぜ執行部が議案に関する説明義務を負わなければならないのかなどの問題がある。説明義務のために総会屋が入り込む余地が生まれる。株主総会が株主とのコミュニケーションの場とならない原因はそこにある。アメリカのように総会開催当初に議案の可決を確認することができれば、あとの時間を株主とのコミュニケーションのために使うことが可能になる。

3.自民党商法に関する小委員会

  ・論点 整理

平成9年7月8日

自民党政治調査会法務部会

商法に関する小委員会

 

1.企業は誰のものか?

2.「企業の自己統治」の目的は何か?

3. 米国型

   ドイツ型

   日本型

4.株主と会社の直接的関係について

・株主総会をどう位置づけるか?

・株主提案権の充実は可能か?

・インベスターリレーションズの在り方は?

・その他のステークホルダーとの関係はどうか?

 

<日本型の場合>

5.株主と取締役の関係について

・取締役の概ね執行役員であることを認めるか?

・認めるとすれば、株主は株主総会によって経営執行権を取締役に委任したということでよいか?

・委任したということであれば、逆に取締役は株主総会に対して、経営執行に関する説明責任を負うとしてよいか?

6.株主と監査役の関係について

・監査役は株主総会によって、取締役の経営執行を監視し、牽制し、助言することを株主から委任されたとしてよいか?

・委任されたとすれば、株主総会に対して経営執行に対する監査の経過について、説明責任を負うとしてよいか?

・監査役は株主総会で監査を委任されたことに対し、その責任を遂行するため、必要な監査体制につき意見を述べることができるとしてよいか?

7.監査役と取締役の相互独立性について

・監査役と取締役はそれぞれ別個に株主総会で委任を受けているとして、形式上は互いに独立であるとしてよいか?

・互いに独立であるとすれば、株主総会に対して別個の説明責任を負うとしてよいか?

・取締役会に、監査役選任に関する提案権を与えておくとすれば、取締役は監査役に対する説明責任を負うとしてよいか?

・監査役が取締役から独立して責任を遂行するためには、任期を充分長く定め、任期途中で退任を強いられないよう条件付ける必要があるのかどうか?

8.監査役と株主一般の権限

・監査役は株主総会の委任を受け、株主代表として行動できるとしてよいか?

・よいとすれば、株主一般に認められる代表訴訟を行う権限と責任、あるいは、株主総会に対する、取締役の解任提案を含む株主提案権を行使する権限と責任があるとしてよいか?

・予めそのような権限と責任があるとすれば、その行使は株主一般に優先して行うことができるのかどうか?

・一般株主からの代表訴訟の申し立てに対し、監査役が相当でないと判断し、その後なお訴訟が行われる場合には、会社が被告側に参加することを認めるかどうか?

・いずれにせよ、監査役が株主代表として取締役を牽制する権限を行使できるとすれば、その行使に義務違反があると判断されれば解任されるべきなのかどうか?

9.監査役の自主管理機関

・監査役として最小限度の知識を与えるための研修、あるいは監査役の相互啓発を行う機関が必要かどうか?

 

<外部からのコーポレートガバナンス>

 

10.株主への利益供与に対する罰則の強化

・刑の引上げ

・特別背任罪の活用

・組織犯罪法制の適用

11.監査役・外部監査人に対する罰則の強化

 

 

4.監査役監査機能充実のための商法改正に関する要望

 

平成9年7月29日

社団法人 日本監査役協会

 

 業界におけるリーディング・カンパニーに当たる一流企業が相次いで不祥事を露呈するに至っては、コーポレート・ガバナンスに基づくところの改革が、日本の経済界にとって急務となっていると思考する。

 企業の監査実務にかかわりを持つ当協会としても、いわゆる大会社のチェック機能を強化するために、今回は企業内の論理から離れてグローバル・スタンダードに向けて以下のとおり要望する。

 要望の骨子は、現行の監査役会の機能をより強化することのみならず、むしろ監査役の職責を同時に強化するための制度の枠組みを設けることにある。

 なお、企業経営に関するチェック機能の強化策として、社外取締役の選任を法定する議論も見受けられるが、むしろ、現行の社外監査役をさらに強化すべきであると考える。

 

1.監査役会の機能の強化

(1)監査役会を監査の主体とするため、現在の協議機関的性格に止めず、意思決定機関的性格に改める。同時に、これにより社外監査役と社内監査役の一層の連帯強化を図る。また、この場合には現在の独任制との調整を図る。

(2)監査役会の構成員のうち社外監査役については原則として複数の選任を要することとし、かつ社外監査役の第3者的公平性確保の観点から、当該会社出身の役員、従業員を可及的に除くものとする。

(3)監査役の公正性の確保と各監査役の連帯性の強化に伴い、監査役の選任に当たっては、監査役会の同意を要することとする。また、監査役の任期中の辞任についても同様とする。

 

2.監査役監査の品質確保

(1)現行の監査役の職能に関する規定の抽象性に鑑み、監査役の職務内容(監査対象、手続等)を法令で明定する。その方策として監査基準の法制化を検討するべきである。

(2)監査基準の法制化にあわせ、現行の監査報告書以上の具体的監査の状況をディスクローズし、監査の厳正な実施の担保とするための方策をとることが望ましい。以上

監査役監査基準の法制化に関する意見

社団法人 日本監査役協会

 

第1 提案理由等

1.監査役は株主の期待に応えるためにも、監査役の職務権限の履行責任を明示する必要がある。

2.監査役に対し、一般に公正かつ妥当と認められる監査手続きの実施を明文をもって強制する。

3.監査役の職務の遂行状況を株主が監視するための判断基準を示す必要がある。

4.監査役監査基準の法制化を適用する対象会社は、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第2条に定める会社とする。

 

第2 法令としての位置づけ

1.株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第18条の後に、次の趣旨の規定を置く。

 「監査役(または監査役会)は、別に定める監査に関する法務省令に従うほか、一般に公正・妥当と認められる監査の方法を選択しなければならない」

2.監査に関する法務省令については、監査役のための監査基準として少なくとも別紙参考事項を含む内容のものであることが適当である。

  また、その制定には、現行の大会社の監査報告書に関する規定(昭和57年法務省令第26号)との調整が必要である。

3.一般に公正・妥当と認められる監査の方法については、社団法人日本監査役協会が特別の機関を設けて実務指針を作成し、公表していく所存である。

 

[追記]

 今回の法律改正に関する当協会要望の趣旨が監査役会の機能強化にあることに従い、直接監査基準にかかわるものではないが、監査等に関する商法特例法第18条の2第3項の監査役の職務の執行の状況の監査役会への報告は、その「求めがあるとき」ではなく「必ず」なされなければならないとすることなどの改正も別途必要である。

 

[別紙]

 監査役・監査役会の監査に関する法務省令に定めるべき事項

1.監査は、取締役及び取締役会から独立した立場で遂行すべきこと。

2.監査に際し、事実の認定、処理の判断及び意見の表明を行うに当たっては、公正不偏の態度であるべきこと。

3.監査の実施及び監査報告並びにその他の権限を行使するに当たっては、形式的に流れて善管注意義務に反することがないよう常に慎重な配慮を払うべきこと。

4.取締役の職務の執行を監査する対象に、監査を除外する領域を作ってはならないこと。あわせて、取締役の法令違反の重点監査項目がいわゆる7条監査項目に限定されるものではないことに留意すべきこと。

5.会計監査については、会計監査人と連係を図り、情報及び意見の交換を行うことによって、監査意見の形成に役立てるべきこと。

6.有用な情報の収集と十分な監査証拠を入手して、自己の意見を形成するに足りる合理的な基礎を得なければならないこと。

7.監査の方針と適切な監査計画を決定し、組織的な監査を実施すべきこと。

 監査計画は、監査役の職務の執行の状況に応じて適時に修正されなければならないこと。

 組織的な監査のため、必要にして十分な補助者を置くべきこと。

8.内部統制の状況を把握し、監査対象の重要性及び監査上の危険性その他の諸要素を十分に考慮して、適用すべき監査手続き、その実施時期及び調査対象を決定すべきこと。

9.内部統制の有効性を評価するに当たっては、内部統制組織の整備と運用の状況のみならず、それに影響を与える経営環境の把握と評価を行うべきこと。

10.監査の実施とその管理を行うため及び次期以降の監査の合理的な実施を図るための資料として監査調書を作成し、監査報告書の作成に当たっては、監査調書を正当な注意をもって監査を実施したことの立証資料とすべきこと。

11.監査報告書は、監査の経過と結果を十分に検討した後に、監査の方法及び結果を明瞭に記載すべきこと。

 もし、監査意見形成に足りる合理的な基礎が得られないときは、意見の表明を差し控えることができること。

12.監査報告書の作成に当たっては、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないよう留意すべきこと。

13.監査のため必要な調査ができなかったときは、監査報告書にその旨及び理由を記載することになっているが、監査のための調査または会議出席等を拒まれたときは、取締役に対しその旨の確認書を求めるべきこと。