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改正商法に基づくストック・オプションQ&A

商事法務No.1470 1997.10.5掲載

衆議院議員 保岡興治監修 商事法務編集部編

 この「改正商法に基づくストック・オプションQ&A」は、ストック・オプション制度を導入した「商法の一部を改正する法律」(平成九年法律第五六号)に関して、実務的にわかりやすいよう網羅的に質疑応答の形にとりまとめたものである。Q&Aの作成に当たっては、経団連における「改正商法等に関する説明会」(平成九年六月一九日開催。保岡興治衆議院議員、大蔵省・法務省担当者による)における質疑応答を踏まえ、さらに東洋信託銀行証券代行部に新規項目の追加および全体的な整理を願い、関係者に確認をいただいたものである。(編集者)



ストック・オプション全般について

1 ストック・オプションとは何か

Q1 ストック・オプションとは、どのような制度か。

 ストック・オプション制度とは、会社が、その会社の役員や従業員に対して、(1)将来の一定期間内に、(2)一定の価格で、(3)一定の数量の、自社の株式を取得することができる権利を付与する制度のことである。  ストック・オプションを付与された役員や従業員は、ストック・オプションの行使価格よりも株価が高い場合に、権利を行使して株式を取得し、取得した株式を売却することによって利益(キャピタル・ゲイン)を獲得することができる。ストックオプションは、権利であり義務ではないから、逆に、株価が行使価格を下回っている場合には、権利を行使する必要はなく、損失が生じることもない。

Q2 ストック・オプションを採用するメリットは何か。

 ストック・オプションを付与された役員や従業員は、会社の業績向上により株価が上昇すればストック・オプションを行使して利益を得ることができるため、会社の業績向上へのインセンティブを持つことが期待できる。また、会社の業績向上や株価の上昇は、株主にとっても歓迎すべきことであるから、株主重視の経営を実践する一つの方法であるということができる。  なお、創業後間もないベンチャー企業などでは、人材を確保するために大企業並みの十分な金銭による報酬を用意することは難しいと考えられるが、ストック・オプションを付与して将来のキャピタル・ゲインを約束することで、優勝な人材確保の途を開くことができるメリットがある。

Q3 ストック・オプション制度には、どのような種類があるか。

 今回の商法改正で認められたストック・オプションは、会社の取締役または従業員を対象に、会社の自己株式譲渡請求権または新株引受権を付与することを内容とするものであるが、このほかにわが国ですでに実施されている同様の制度として、1)新株引受権付社債(ワラント債)を利用した「疑似ストック・オプション制度」、2)新規事業法(特定新規事業実施円滑化臨時措置法)上のストック・オプション制度がある。また、ストック・オプション制度が以前から活用されている欧米のストック・オプション制度には、ストック・オプションのさまざまなバリエーションがある。いくつか例を挙げると、3)ファントム・ストック(仮想株式)、4)SAR(Stock Appreciation Rights ストック・アプリケーション・ライツ)、5)譲渡制限付株式、などがある。1)から5)の内容について、以下に簡単に説明する。   1)の新株引受権付社債を利用した疑似ストック・オプション制度とは、会社が、分離型の新株引受権付社債を発行し、分離された新株引受権だけを買い戻して、役員や従業員に付与する制度である。   2)の新規事業法上のストック・オプション制度は、平成七年一一月の新規事業法の改正により、新規事業法で認定された未公開会社が、役員や従業員に対し有利な価額による新株引受権を一〇年内の定められた行使期間内に行使することを条件に、付与する制度である。また、新たに郵政省所管の特定通信・放送開発事業実施円滑化法が改正され、新規事業法と同様のストック・オプション制度が利用できることとなった。    3)のファントム・ストックは、現物株式の移動は行わないで、権利を付与された時点の株価と一定期間経過後の株価との差額を金銭で支給する制度である。ファントム・ストックという名称が示すとおり、あたかも権利者に株式を付与したのと同じ効果を帰属させることから、期間内の配当金相当額の金銭も支払われる。ただし、議決権については付与されない。   4)のSARは、ほぼファントム・ストックと同様の制度であるが、時価と権利行使価額の差額を現金もしくは相当額の株式(あるいはその組合せ)のどちらで受け取るかを権利者が選択できる制度である。ファントム・ストックと異なるのは、配当金相当額の支払いがない点、権利行使期間内であれば、任意に権利を行使できる点である。   5)の譲渡制限付株式は、会社が無償で役員や従業員に株式を譲渡するものの、一定の制限期間が経過するまではその株式の売却を制限するという制度である。制限期間内でも、権利者は、議決権の行使・配当の受領が可能であるが、制限期間中に、死亡や傷害等の一定の事由を除く雇用関係の終了がある場合には、原則として付与された株式を返還しなくてはならない。


2 今回解禁されたストック・オプションの特徴

Q4 今回の商法改正によって、どのようなストック・オプション制度が利用できるようになったのか。

 商法改正によって解禁されたストック・オプション制度は、二つの方式がある。つまり、「自己株式方式」と「新株引受権方式」である。また、改正に伴い、すでに実施されている新規事業法等の特別法上のストック・オプション制度も、新株引受権方式によるものとなった。

Q5 自己株式方式と新株引受権方式の二つの方式を併用することはできるか。

 両方式の併用は、一方のストック・オプションに未行使部分が残存している限り他方の実施が認められないところから、実質的にすることができない(商法二一〇条ノ二第五項、商法二八〇条ノ一九第五項)。ただし、自己株式方式を実施中に未行使の譲渡請求権が残存している場合でも、新株引受権方式のための定款変更を行うことは可能と解される。

Q6 ストック・オプションはどのような会社が採用することができるのか。

 ストック・オプションは、株式会社であれば、どの会社でも採用することができる。ただし、自己株式方式には、財源規制があり、配当可能利益のない会社では採用することができないという制約がある。

Q7 誰に対してストック・オプションを付与できるのか。

 ストック・オプションを付与する対象者は、その会社の取締役および使用人(従業員)である。したがって、その会社の監査役や子会社・関係会社の役職員にはストック・オプションを付与できない(国会質疑)。使用人(従業員)には、顧問や嘱託も含まれるかどうかは、個々の顧問契約や嘱託契約等によって異なるので画一的には判断することはできない。

Q8 ストック・オプションの対象を従業員持株会とすることは可能か。

 今回の商法改正で認められたストック・オプション制度においては、権利の対象となる者について、株主総会決議時点で特定することを求めており、基本的に入退会が自由な従業員持株会を対象とすることは困難である。

Q9 自己株式方式のストック・オプションはどのような制度か。

 会社が、すでに発行した自社の株式を市場等から取得して自己株式を保有し、ストック・オプションの行使に備える方法によるストック・オプション制度である。以前は、使用人に譲渡するための自己株式の取得(商法二一〇条ノ二)に限定されており、かつ譲渡できる期間も六カ月に限定されていたためストック・オプション制度としての利用は実質的に不可能であったが、今回の改正において、取締役を対象に加えるとともに、譲渡できる期間が一〇年まで延長されたため、ストック・オプション制度としての利用の途が開かれた。

Q10 新株引受権方式のストック・オプションはどのような制度か。

 ストック・オプションが行使されると、会社がその都度新株を発行する方法によるストック・オプション制度である。従前は、新規事業法認定会社等に対し、新規事業法等の特別法でのみ認められていたが、今回の改正により、商法二八〇条ノ一九が新設され、すべての株式会社で利用できることになった。

Q11 ストック・オプション制度を採用するためにはどのような手続が必要か。

 「自己株式方式」、「新株引受権方式」のどちらの方式のストック・オプションについても、株主総会の決議が必要となるが、その決議要件等は異なっている。自己株式方式は、取締役・使用人に株式を譲渡するための自己株式の取得につき、定時総会の決議(普通決議)が必要であるのに対し、新株引受権方式は、取締役・使用人に新株引受権を付与できる旨の定款変更(特別決議)を行った後、具体的に取締役・使用人に新株引受権を付与する旨の特別決議が必要となる。

Q12 自己株式方式を採用するための総会決議は、なぜ定時総会でないとできないのか。

 取締役・従業員に譲渡するための自己株式の取得は、配当可能利益の範囲内に限るという財源規制が加えられている(商法二一〇条ノ二第三項)。配当可能利益の範囲内でどれだけの株式を取得するかでその期の利益配当額が左右されることになるため、自己株式の取得は会社の利益処分にかかわるものということができる。また、この配当可能利益は、定時株主総会で決算が承認されることにより確定することからも、定時総会における授権の決議を必要とする(法務省民事局参事官室編『一問一答平成六年改正商法』四二頁)。

Q13 ストック・オプションのために取得する自己株式には数量規制があるか。

 ストック・オプションのために取得する自己株式は、発行済株式総数の一〇分の一以内という数量規制がある。

Q14 株式の消却や新株の発行等で発行済株式総数自体が変動する可能性がある場合に、発行済株式総数の一〇分の一以内という数量規制は、どの時点で充たされている必要があるか。

 今回の立法趣旨からいって、株主総会での決議の時点および実際の自己株式取得の時点の両方で発行済株式総数の一〇分の一以内という要件が満たされなければならないと解される(国会質疑、保岡議員)。

Q15 利益消却の数量規制とストック・オプションの数量規制は、同時並行で実施する場合、合わせて発行済総数の五分の一まで可能か。

 消却特例法に基づく利益消却のための自己株式取得とストック・オプションのための自己株式取得は趣旨の異なる制度であるから、取得しうる株式総数の限度の計算も別々に行う必要がある。したがって、それぞれ一〇分の一、合わせて五分の一まで可能となる。  なお、商法二一二条ノ二に基づいて行われる利益消却のための自己株式取得は、これまた趣旨の異なる制度であるから、並行して行うことが可能である(国会質疑 保岡議員)。

Q16 取締役に付与するストック・オプションは、商法でいう報酬に当たるか。  

 商法二六九条の趣旨は、取締役の報酬を取締役会や代表取締役の自由な決定に委ねることができるとすると、いわゆるお手盛りの弊害があることから、定款の定めまたは株主総会の決議を要求するものである。そして、ここにいう報酬とは、取締役が取締役たる資格において、会社に対する職務執行の対価として会社から受ける金銭その他の経済的利益をいうものと解される。  ストック・オプションは、当然にすべての取締役に定期的に与えられるというものではないし、株価が予め権利行使価額よりも上昇するかどうかもわからない。また、権利行使するかどうかの判断も権利者の任意に委ねられている。このため、権利行使によって受ける経済的利益は、職務執行の対価として客観的に定まるかどうかについては疑問があり、ただちに商法二六九条の報酬に当たるとはいえないのではないかと考えられる。したがって、いわゆる役員報酬に関する参考書類規則あるいは計算書類規則の附属明細書中の報酬の欄には、このストック・オプションのいわゆる経済的利益は記載しなくてよいと考えられる。

Q17 使用人に付与するストック・オプションは、労働基準法の賃金通貨払いの原則(同法二四条)に反しないか。

 ストック・オプションから得られる利益は、それが発生する時期およびその額が、ともに労働者(使用人)の判断に委ねられているため、労働の対価ではなく、労働基準法上の賃金には当たらないと考えられる。したがって、労働基準法二四条の通貨払いの原則との間で問題は生じないと考えられている(労働省の国会答弁)。

Q18 ストック・オプション制度は、社内でも「報酬」として位置づけなくてもよいか。

 ストック・オプションによって得られる利益が、「商法上の役員報酬」および「労働基準法上の賃金」に当たらないというのは、あくまでもそれらの法律の適用上の問題である。  ただし、ストック・オプション制度が盛んに利用されている欧米においてはストック・オプション制度は「業績連動型報酬制度」として認知されているように、実質的には報酬の一部として位置づけられることになろう。

Q19 付与されたストック・オプションの全部または一部を行使していない者に対し、追加してストック・オプションを付加することは認められるか。それが認められるとした場合に、前回付与されたストック・オプションと新たに付与するものとで、権利行使期間の終期または譲渡価額(発行価額)が異なることは許されるか。

A 付与されたストック・オプションを行使するかどうかは、もっぱら権利者の判断に委ねられるべき事項である。また、新たに実施するストック・オプション制度の対象者に未行使のストック・オプションの保有者を加えるかどうかは、株主総会ならびに取締役会の決議により決定すべき事項である。したがって、未行使のストック・オプション保有者に対し追加してストック・オプションを付与することは認められる。なお、権利行使期間の終期または譲渡価額(発行価額)についても、対象者に与えるインセンティブの大きさならびに付与時点の株価を勘案の上決定すべきであり、未行使のストック・オプションを基準に決定されるべきものではない。

Q20 自己株式方式と新株引受権方式で、改正法の施行期日を分けたのはなぜか。

A 自己株式方式の施行期日を六月一日としたのは、わが国の上場企業のほとんどが三月決算であり、六月末に定時株主総会を開催することから、これらの会社が自己株式方式によるストック・オプション制度を採用できるよう配慮したためである。  また、新株引受権方式の施行期日が今年一〇月一日であるのは、新株引受権を付与できる旨の特別決議をした場合には、新株引受権の行使により発行すべき株式の登記をしなければならないとされており、登記所の体制の整備にある程度の期間を要することから、この点について配慮したためである。

Q21 単位未満株や端株の付与は認められるか。

A 自己株式方式の場合、会社が権利行使に応じて自己株式を譲渡するには、株券の交付が必要である(商法二〇五条)。したがって、単位未満株や端株を付与することとした場合、それに対応する単位未満株券(または端株券)を保有していることが必要である。単位未満株の新たな発行が禁じられ、端株についても端株原簿への記載を原則とする現行法のもとでは実質的に不可能である。他方、新株引受権方式の場合、取締役・使用人が会社から取得する株式は、新株発行によるものであって、譲渡ではない。このため、理論上は可能であるが、単位株制度及び端株制度の立法趣旨を考慮すると、単位未満株や端株を対象に新株引受権を付与することは、法の趣旨に反するものと思われる。

Q22 権利行使時の時価と取得価額(権利行使価額)の差額は取締役の報酬・従業員の賃金とみなさなくてもよいか。

A ストック・オプションの行使による経済的利益が、取締役の商法上の役員報酬・従業員の労働基準法上の賃金に当たらないことはすでに述べた。ただし、税務上の取扱いについては、Q76を参照。

Q23 証券取引法二〇一条は、ファントム・ストックやSAR導入の妨げとなるか。

A 証券取引法二〇一条の差金取引禁止規定は、証券取引所の相場を使った賭博を禁止するという刑法の賭博罪の特別規定であり、ストック・オプション制度は報酬の一部が株価に連動するだけであって、賭博とは無縁の世界と理解でき、証券取引法二〇一条がファントム・ストックやSAR導入の妨げとなることはない。

Q24 ストック・オプションを行使する場合には、権利者は、取得する自己株式の対価として、権利行使価額、行使株数に応じた資金負担を要することになる。この権利者の資金負担を軽減することができれば、ストック・オプション制度は、会社および権利者にとって、一段と利用しやすい制度となるはずである。この観点から、権利者の資金負担をなくすため、会社から権利者への株券の交付を省略して、会社が市場で売却した価額と権利行使価額の差額を権利者に受領させるという方法をとることは可能か。

A 自己株式方式による商法上のストック・オプション制度を実施した限り、商法の規定に従うのは当然であり、取締役または使用人に株式を譲渡せず、時価と権利行使価額の差額のみを取締役または使用人に交付することは認められない。  



二 総会決議・定款変更について

1 全般的事項(自己株式方式・新株引受権方式に共通の問題)

Q25 ストック・オプション制度の採用のための総会決議は、どの株主総会でも決議できるのか。

A 自己株式方式の場合は、定時株主総会で決議する必要がある(Q12参照)。新株引受権方式は、定時、臨時いずれの株主総会の決議でも行うことができる。

Q26 総会で決議した事項(譲渡する株式の数、権利行使期間、権利行使についての条件等)に関して、その翌年以降の総会でこれに変更を加える決議を行うことは可能か。

A 公開会社が自己株式方式のストック・オプション制度を実施する場合に、定時株主総会で決議すべき事項は、決議後最初の定時株主総会の終結時までに取得する株式の種類、総数および取得価額の総額(商法二一〇条ノ二第二項一号)、譲渡請求権を付与する取締役または使用人の氏名、譲渡する株式の種類、数、譲渡価額および権利行使期間、権利行使についての条件(商法二一〇条ノ二第二項三号)と定められている。この場合の自己株式は、同決議に基づいて譲渡請求権を付与すべく取得するものであり、自己株式の取得も次期定時株主総会の終結時までに終了している。  よって、翌年以降の総会で、総会決議事項に変更を加えたとしても、その総会決議は、すでに前年の総会決議に基づき取得した自己株式に影響を及ぼすことはないと解されるため、いったん総会で決議した事項に関し、翌年以降の総会でこれに変更を加える決議をすることはできない。  なお、ストック・オプションの付与は、会社と取締役・使用人との合意により締結される譲渡請求権付与契約(自己株式方式)に基づくから、当事者の合意があればその内容に変更することは可能である。しかしながら、契約内容の変更も無制限に許容されるものではなく、総会の授権の範囲内という限界があり、また新たなストック・オプションの付与に相当する変更(たとえば、株式数の増加)は、総会の授権の範囲内であっても、付与可能期間経過後はすることができないと解すべきである。

2 権利行使価額

Q27 権利行使価額は時価(またはそれに準ずる価額)よりも、高いことが必要か。低くてもよいのか。

A 商法上、権利行使価額についての定めはなく、各会社で任意に決定することができるものと解される。しかし、ストック・オプション制度を実施する趣旨は、取締役・使用人に対する会社業績向上のためのインセンティブ付与にあるのだから、権利行使価額は、少なくとも権利付与時点の株価以上の価額に設定すべきと考えられる。

Q28 株主総会で決議されるべき権利行使価額について、将来の一時点での株価を基準とする、いわゆる算定方式による決議も検討されているが、かかる決議の法的有効性はどうか。

A 株主総会において決議すべき権利行使価額は、金額を算定するための客観的な基準で決議することも差し支えない。絶対的な金額で決議した場合には、ストック・オプションを付与した時点での株価との関係で、当初意図したとおりのインセンティブを与えられないという不都合が出ることも考えられる。

Q29 たとえば、会社が取得する自己株式の取得価額の平均値という定めは可能か。

A 権利行使価額を一定の基準により決定することが可能であるとしても、会社が取得する自己株式の取得価額の平均値という基準を用いるのは好ましくない。株主総会の決議事項である以上、一定の基準には客観的な基準を用いるべきであり、自己株式の取得価額の平均値という基準はやや不明確である。

Q30 株価が一定の金額を下回った場合には権利行使価額を変更する(たとえば、下方修正条項付転換社債の例)等、行使価額を一定の条件のもとに変えることは可能か。

A 一定の条件下での権利行使価額の変更も、一定の基準による権利行使価額の決定方法と考えて差し支えないが、その場合には一定の条件につき議案の要領として開示した上で、株主総会の決議を得る必要があろう。

3 権利行使期間

Q31 権利行使期間までの待機期間として一定の期間を置くべきか。

A 権利行使期間は株主総会の決議事項であるが、権利行使期間の始期を権利付与から一定期間経過後とすべき規定はない。よって、報酬体系に占めるストック・オプション制度の位置づけおよびインセンティブ付与の観点から各社で任意に決定すべき事項と考えられる。  ただし、インセンティブを付与された権利者が業績向上に向けて努力し、実際の会社業績に反映されて、会社の株価が上昇するまでには、相応の時間を要すると考えられることから、一定の待機期間を設けることには合理性があると考えられる。

4 権利行使の条件

Q32 ストック・オプションは、相続あるいは贈与することができるか。

A 相続は、権利者の意思に基づくものでない権利の移転であるから、株主総会の決議により取扱いを決めるというのが法の趣旨である。ただし、生前贈与は、権利者の意思に基づく譲渡の一態様であるから、ストック・オプションの趣旨からいって、認められない(国会質疑、保岡議員)。

Q33 権利行使の条件に関し、1)取締役退任後も権利行使できる、2)一身専属権として相続を認めない、といったことは可能か。もう可能だとして、具体的に、どのようにすればよいか(総会決議の権利行使の条件に盛り込むのか、ストック・オプション付与契約に定めれば足りるか)。

A 権利行使の条件は総会の決議事項となっているから、右1)、2)とも総会決議の権利行使の条件に盛り込めばよい。ただし、ストック・オプションは取締役・使用人へのインセンティブの付与が目的であるから、取締役退任後、長期間にわたって権利行使が可能であるとすると、その趣旨に反することになりかねない。

Q34 総会での決議が、「権利行使の条件はストック・オプション実施要領に定める」とされた場合、その内容について、総会で説明を求められた場合には具体的内容を説明する義務を負うのか。

A 権利行使の条件は、総会の決議内容の一つであり、具体的内容が定まっている場合には、当然その内容を説明しなければならない。ただし、決議後に実施要領の作成を予定している場合には、その旨回答し、株主総会の判断を求めることになろう。

Q35 ストック・オプションを付与された取締役・従業員が権利行使日以前に死亡した場合(あるいは取締役・従業員でなくなった場合)、未行使のストック・オプションは相続(あるいは行使)できるのか。

A 総会決議の内容次第である。

Q36 権利の喪失、相続の条件をどう記載するか。税制上、法令上の制限はあるか。

A 総会の決議の内容次第であるが、一般的には死亡、退職等を権利喪失の条件として記載し、さらに喪失後一定期間に限って権利行使を認める旨記載する例が多い。税制上、法令上の制限はない。

Q37 「株価が○○○円以上となった場合に行使できる」といった条項を設けることは可能か。

A 権利行使の条件であるから、総会で決議すれば可能である。

Q38 年間の権利行使株数を、合計権利付与株数の一定割合に制限することができるか。

A 権利行使の条件であるから、総会で決議すれば可能である。

5 調整事項

Q39 株式分割によるストック・オプションの価値の希薄化を防止するため、会社が株式分割を行った場合には、譲渡(発行)する株式の数および譲渡価額(発行価額)の両方を、一定の算式により調整するということを予め定めておくことは可能か。

A 譲渡価額(発行価額)を一定の算式により調整することについては、問題ない。ただし、譲渡(発行)する株式を調整することについては、自己株式方式において単位未満株(端株)の譲渡が実質的に不可能であるところから、単位未満株(端株)が生じるような譲渡株式数の調整はできない。

6 氏名

Q40 取締役全員、○級以上の従業員、総務部長、経理部長等の役職名でもよいか。

A ストック・オプションを株主総会で決議する際には、ストック・オプションの持つ意味をよく株主に理解してもらうために、できるだけ正確にオプションプランを明示する必要がある。したがって、法も、付与すべき取締役・使用人の氏名を明らかにするように求めているところである。  しかしながら、たくさんの従業員や使用人にストック・オプションを付与する場合に、個々の名前を挙げることは煩瑣であるし、逆にストック・オプションのプランをわかりにくくすることになる。むしろ、どういう立場の者に、どれくらいの数、どのようにストック・オプションを与える、そのことが会社、企業の向上にどう作用するかということが大切で、そういう趣旨が満足されていれば、この法の趣旨には沿うものだと思われる(国会質疑、保岡議員)。

7 その他

Q41 株価が、一定の金額以下に下落した場合(株価が、権利行使期間内に、権利行使価額まで回復できない程度に落ち込んだ場合)には、権利が喪失する旨の定めを契約に盛り込むことは可能か。

A 実現可能性のなくなった場合に契約を解除する旨の条項を、権利行使の条件の一つとして、付与契約中に盛り込むことは、合理的であると思われる。

Q42 配当可能利益の範囲内というのはどの時点で満たされていればよいのか。

A 自己株式の取得財源は、商法二一〇条ノ二第三項に定められており、この取得財源が変動することはない。また、自己株式の取得限度額は総会決議で特定されている。したがって、総会決議の時点で取得限度額が配当可能利益の範囲内にあればよいことになる。

Q43 総会日にすでに保有している自己株式を、ストック・オプションのために利用することは可能か。また、この場合にも、配当可能利益の範囲内という財源規制はかかるのか。

A 総会日現在ですでに保有している自己株式を、ストック・オプションのために利用する旨の総会決議が行われる限り、可能と考えられる。この場合、当該株式は、いったん市場で売却し、改めて買い付けるという行為を実質的に中間省略したにすぎないから、当該株式の貸借対照表価額が取得価額に相当することになり、これを含めた取得価額の総額が、配当可能利益の範囲内でなければならない。

Q44 定時総会決議以後に、単位未満株式の買取りによって会社が保有することとなる自己株式を、ストック・オプションに利用することは可能か。

A 単位未満株式の買取りは、市場売買ではなく、相対売買である。公開会社の自己株式取得方法は、公開買付けまたは市場売買によらなければならず、相対売買である単位未満株式の買取りによって取得した自己株式をストック・オプションのために利用することはできない。

Q45 株券オプション取引の対象銘柄に指定されている場合、ストック・オプションのための自己株式取得を決議した後の株価上昇に備え、コール・オプションを買って値上がりリスクをヘッジすることは可能か。

A 株主総会の決議により自己株式の取得が取締役会に授権された場合、総会決議時と自己株式取得時のタイムラグによる株価の変動が原因で、総会決議で授権された自己株式を取得できなくなることは十分にありうる。  一方、株券オプション取引は、投資家が個別の株式の相場変動に対する有効なリスクヘッジ手段を提供することを目的としており、発行会社自身が個別株オプション取引により、その導入の目的であるリスクヘッジの恩恵を受けることも考えられなくはない。  しかし、オプション取引とはいえ、対象株券が自己株券であることから、むしろ商法上の自己株式取得の弊害をもたらす危険に配慮する必要がある。ただし、ストック・オプション制度導入のための自己株式取得が総会決議により取締役会に授権されている限り、発行会社自身が自己株式のオプション取引を行うことも認められてしかるべきと考えられる。  したがって、自己株式取得が総会決議を経たことによって許容される限り、個別株オプション取引によるリスクヘッジを行うことも許されるものと考えられる。




三 ストック・オプション付与契約

Q46 いわゆるストック・オプション付与契約は、対象者各人との間で個別に作成するのではなく、約款のようなものを包括的に定め、対象者各人に対しては個別に譲渡(付与)する株式の数を通知すること等で足りると考えるがどうか。

A 契約条項を包括的に約款等で定めることは差し支えない。また、契約は書面契約に限られず、口頭による契約もありうるから、対象者各人との間で契約書に調印しないことも考えられる。しかし、対象者各人に個別に付与する株式数を通知するだけでは、契約が成立したとは考えられず、少なくとも通知に対する対象者の承諾を得ることは必要である。

Q47 ストック・オプション付与契約書は書面によることが必要か、口頭でよいか。

A 民法上も契約を書面契約に限っていないことから、口頭による契約も十分にあり得ると思われる。しかし、書面による契約を締結せず、口頭により契約を締結する場合であっても、紛争回避の観点からは、契約の主要な事項については書面を作成して交付するなど、制度運営に支障がないよう配慮する必要があると考えられる。

Q48 会社が、総会決議に基づいてストック・オプション付与契約を締結するためには、当該契約を締結すに旨等について、取締役会で決議しなければならないか。

A 取締役に対してストック・オプションを付与する場合に、会社と当該取締役との間に利益相反関係が生じるのであれば、自己取引に関する取締役会決議が必要であることはもちろんである。それ以外の場合に取締役会決議が必要かどうかは、商法二六〇条二項の解釈または取締役会付議基準等によって各社で判断すべき事項と考えられるが、通常は取締役会で決議することとなろう。

Q49 ストック・オプションの付与契約は、総会に先立って作成、締結することが必要か。

A ストック・オプションの付与契約は、自己株式取得の要件にすぎず、総会前に具体的に契約を締結することまでは求められていない。仮に総会に先立って契約するとしても、総会決議が得られていない以上、条件付の契約となろう。ただし、契約の重要な内容となる取締役または使用人の氏名等を決議事項としているところから、当然これらの事項については取締役会で決定しておくことが必要である。

Q50 各権利者ごとに異なる条件をつけて契約締結することは可能か。

A 権利付与契約は、個別に締結されることが原則であるから、総会決議の授権の範囲内で、会社と各権利者との合意内容によっては、各権利者ごとに異なる条件をつけることも当然あり得る。  なお、ストック・オプション制度の導入に際して改正された企業内容等の開示に関する省令においては有価証券届出書、有価証券報告書の「株式の状況」の記載上の注意として、権利の付与対象者ごとに条件が異なる場合には、対象者ごとの条件を記載することとしている。

Q51 ストック・オプションの付与は、どの時点で行われることになるのか。株主総会の決議時点か、ストック・オプション付与の取締役会議の時点か、ストック・オプション契約の締結の時点か。

A 自己株式方式の場合、ストック・オプションの付与は、契約に基づいて行われるため、付与の時期について契約で特段の規定を設けない限り、契約締結の時点である。他方、権利行使価額については、原則として、付与を決めた取締役会で決定される。ただし、権利行使価額を一定の算式により決定することとし、しかも権利付与日を価額決定の要素としている場合、権利の付与がいつ行われたかは、重要な問題となる。仮に契約締結日が対象者によって異なる場合には、権利行使価額も異なることになる。そこで、このような事態を避けるには、オプションの付与日を契約締結日にかかわらず一定の日とする旨の規定を契約書に盛り込んでおくことが必要である。これに対して、新株引受権方式の場合は、取締役会の決議があった日に、原則として、新株引受権が付与される。したがって、権利行使価額が前記のような算式で決定されるとしても、問題は生じないものと考えられる。

Q52 ストック・オプションは、付与可能期間内に数回に分けて付与することは可能か。

A 権利付与可能期間内に数回に分けてストック・オプションを付与しても差し支えないと解される。ただし、権利行使価額が権利付与時点の株価を基準として決定される場合には、いつ権利を付与したかによって権利者ごとのインセンティブの大きさが変動するから、権利者への付与株式数はその都度、按分比例により決定する等の配慮が必要である。

Q53 会社と取締役間のストック・オプション契約の締結は、商法二六五条の自己取引として個々の契約につき取締役会の承認をとる必要があるか。

A ストック・オプション契約締結に関し、総会決議により取締役会に授権された契約事項が、取締役会に裁量の余地がない場合には、会社とストック・オプションを付与される取締役との間に利益相反関係は生じないと解されるから、自己取引について取締役会の承認を得る必要はない。




四 自己株式の取得・処分について

Q54 会社が権利行使期間内に自己株式を取締役・従業員に譲渡しなかった場合、会社の当該自己株式の処分時期および処分方法は、改正前の商法二一一条に基づく合併・営業譲受等により取得した自己株式などについての取り扱いと同様(相当の時期に、取締役会の決定によりする方法により)と考えてよいか。

A 改正商法二一一条の規定により、ストック・オプションのために取得した自己株式について、権利を付与された取締役または使用人(従業員)に対し権利行使期間内に株式を譲渡しなかった場合には、「相当の時期」に株式を処分することが求められる。したがって、合併・営業譲渡により自己株式を取得した場合と同様の取扱いとなる。

Q55 ストック・オプションの権利行使期間満了時に自己株式が残存する場合、その後開催の株主総会決議を得て付与されるストック・オプションのための自己株式として流用することができるか。また、それは商法二一一条の「株式の処分」の一方法と考えてよいのか。

A 商法二一一条の規定により、権利行使期間満了時の残存自己株式は「相当の時期」の処分が求められるが、この場合の相当の時期は数カ月と解されるので、原則としてはこの数カ月の間に市場等で売却することになる。しかしながら、この数カ月間の間に定時株主総会が開催され、そこでストック・オプション導入に関する決議の際に、制度に充てる自己株式は残存自己株式を流用する旨開示がされるのであれば、例外的に流用が可能と解される。この場合には、流用することが「株式の処分」に該当することとなる(国会質疑・保岡議員)。

Q56 ストック・オプションのために取得した自己株式のうち、権利行使がされなかったため会社が担当の時期に処分しなければならないものを利益消却に流用することは可能か。

A Q55で述べたところが認められるのであれば、当該株式の流用を、取締役または使用人に譲渡すべき場合に限定する理由は、見当たらない。したがって、本来売却すべき数カ月の間に、定時株主総会が開催され、利益消却のための自己株式取得に関する決議の際に、権利未行使の自己株式を利益消却の対象として流用することが開示されるのであれば、例外的に流用が可能であると解される。

Q57 会社が自己株式を保有している間に株価が下落したことにより発生する自己株式の評価損または自己株式を処分することによって生じる損失に対し、取締役は責任を問われることになるのか。

A 自己株式の取得の際に、適正な価格(時価)により取得しているのであれば、原則としてその後の株価の下落に対して責任を問われることはないと解される。ただし、自己株式の処分時期をいたずらに遅延させることにより、処分損失が拡大してしまった場合などは取締役の責任が問われる可能性はある。

Q58 会社が付与するストック・オプションのうち一部は行使されないであろうことを予想して、ストック・オプションがすべて行使された場合に必要となる数量から行使されないと見込まれる数を差し引いた数だけ自己株式を取得するということは許されるか。

A ストック・オプションのための自己株式取得について、総会の決議に基づき、実際にどのタイミングでどれだけの株式を取得するかは、取締役会の裁量に任されている。  したがって、取締役会で、質問にあるように未行使部分を合理的に見越した上で少な目に自己株式を取得するべきと判断するのであれば、そのこと自体は差し支えないと思われる。ただし、合理的に未行使部分を見越すことは不可能と思われるし、仮に取締役会の予想より多く権利行使された場合には、見合いの自己株式を手当てする必要が出てくるが、ストック・オプションのための自己株式取得の期限は、翌年の定時総会終結の時までであるため、期限後は自己株式を手当てできなくなってしまうことになる。その結果、自己株式を付与できないような事態に至ると、会社は債務不履行として、当該権利者に対して損害賠償義務を負う。

Q59 会社が合理的な努力をしたにもかかわらず、ストック・オプションに必要な数量の自己株式を取得することができなかった場合、会社または会社の取締役の責任が問われることになるのか。

A 株主総会でストック・オプション導入に関する決議をした後に株価が高騰した結果、総会で承認された取得価額の総額では、ストック・オプションに必要な数量の株数を取得することができなくなるという事態も想定される。この場合、当該不足部分に係る権利行使があった場合は、履行不能に陥るが、取締役の責任がただちに問われるわけではない。いずれにせよ、これを回避するには付与契約の締結を必要株数取得後とするか、こういった事態を想定した規定、たとえば、「ストック・オプションに必要な数量の自己株式が取得できない場合には、権利行使株数は按分計算により修正する。」といった条項をあらかじめ契約に盛り込むことが望ましい。

Q60 会社は株主総会でオプション付与が承認されていれば、実際に取締役・従業員にオプションを付与する前にあらかじめ自己株式を取得することができるか。

A 自己株式取得とオプション付与は、いずれも次期定時株主総会終結の時までに実施する必要があるが、いずれを先にするべきかは特に規定されていない。したがって、質問のように、実際に取締役・従業員にオプションを付与する前に予め自己株式を取得しても差し支えない。




五 新株引受権方式の問題  

Q61 新株引受権証書は発行する必要があるか。

A 新株引受権証書は、新株引受権が譲渡されることを前提として発行されるものであり、新株引受権方式によるストック・オプションは譲渡できない(改正商法二八〇条ノ二〇)ことから、新株引受権証書を発行する必要性がない。

Q62 新株引受権方式の場合、権利者との個別の契約は不要と考えてよいか。

A 自己株式方式の場合は、商法二一〇条ノ二第二項三号に「予メ定メタル価額ヲ以テ会社ヨリ其ノ株式ヲ自己ニ譲渡スベキ旨ヲ請求スル権利ヲ与フル契約」と規定されていることから権利付与は契約によることとなるが、新株引受権方式の場合、商法二八〇条ノ一九では「新株引受権ヲ与フル」という表現となっており、特に契約によるべきこととは明記されていないところから、契約は不要である。実務的にも付与する内容が、相手方に負担を課すものではないところから、権利を付与する旨の一方的な通知で足り、対象者からの応諾する旨の意思表示は必要ないものと解される。

Q63 新株引受権方式の場合の権利付与日は、権利付与に関する取締役会決議時点と考えるべきか、それとも契約日(もしくは通知日、通知到着日)と考えるべきか。

A Q51で述べたとおり、新株引受権方式の場合、特段の決議がない限り、取締役会の決議によって権利付与が行われる。したがって、権利付与日は、取締役会で特段の決議がない限り、取締役会決議の日である。

Q64 商法二八〇条ノ一九にいう「正当な理由」は、定款に記載する必要があるか。また、議案の要領には、正当な理由を記載する必要があるか。

A 改正商法二八〇条の一九では、「正当ナ理由アルトキハ」取締役または使用人に新株の引受権を付与することができる旨規定されているのであり、定款に正当な理由の記載を求めているものではない。したがって、「正当な理由」については定款に記載する必要はない。ただし、正当な理由の存在は、ストック・オプション導入の要件と解され、正当な理由の有無は実際にストック・オプションの付与決議をする際に、株主総会で判断されるべき重要な事柄である。そのため、ストック・オプション付与に関する議案の審議に際しては、招集通知の議案の要領に「正当な理由」を記載するとともに、総会当日も正当な理由を開示した上で議案を審議してもらうべきである。自己株式方式の場合には、「取締役又は使用人に株式を譲渡することを必要とする理由」の開示が求められていることとのバランスからも「正当な理由」を開示するべきである。  なお、「正当な理由」の記載例としては、「業績向上に対する意欲や士気を高めること」などが考えられる。

Q65 新株引受権方式のストック・オプションの定款変更のみ、施行期日(平成九年一〇月一日)前の株主総会で決議することができるか。

A 認められない(国会質疑・保岡議員)。

Q66 新株引受権方式のストック・オプションに関する定款変更を行った会社が、自己株式方式のストック・オプションを決議することができるか。

A 商法二一〇条ノ二第五項は、商法二八〇条ノ一九第二項の決議があった場合においてその決議に係る新株引受権に未行使部分がある場合に、自己株式方式のストック・オプションの決議を禁じており、ただ単に定款変更の決議が行われたにすぎない場合には、自己株式方式のストック・オプションに関する決議を禁じているものではない。




六 会計処理について

Q67 取得価額を上回る価額で譲渡した場合には、売却益、株主資本の増減とするのか。

A ストック・オプションのための自己株式取得は、投資その他として資産に計上されるので、取得価額を上回る価額で取締役または従業員に譲渡した場合には、当然その時点で売却益が計上される。なお、資産の売買であるところから、株主資本の増減は伴わない。

Q68 行使価額と時価との差額に関する会計・税務処理について指針があるか。特に、退職した取締役・従業員の行使を認めた場合はどうか。

A 行使価額と時価との差額については、現行税制の下では所得として取り扱われ、課税がなされる。また、退職した取締役・従業員の行使を認めた場合、行使価額と時価との差額は、一般的には一時所得として取り扱われることになろう。

Q69 取締役、使用人への譲渡のための自己株式取得や、利益消却のための自己株式取得については、定義総会において、取得する株数とともに、配当可能利益の範囲内で取得価額の総額についても決議することが必要とされている。ここでいう取得価額は、税法の考え方と同様に、株式を取得した際の購入手数料その他その株式の受入れのために要した費用を含むと考えるべきか。

A 税法が、有価証券の取得価額に購入代価とともに、購入時の手数料等の付随費用を含むこととしているのは、会計原則の費用収益対応の原則に基づくものである。これに対し、商法が取得価額の総額を決議することを求めた趣旨は、資本充実の原則との抵触を回避するため、自己株式の取得財源を規制することにあるところから、商法で定めるところの取得価額は、購入代価を意味し、購入時の手数料等の付随費用は含まれない。  なお、会計処理については、通常の株式の取得と同様に取得原価に含めて処理することになろう。




七 開示

Q70 営業報告書上の自己株式の取得、処分等、保有の状況の記載(計算書類規則四五条一項八号の二)において、ストック・オプションの権利行使による自己株式の譲渡(処分)株数については、対象者全員の分を一括して記載することで足りるか。

A 営業報告書上の自己株式の所得、処分等、保有の状況については、自己株式の取得事由ごとに区別して記載する必要はあるが、ストック・オプションの権利行使による自己株式の譲渡の状況につき、個別の譲渡の内訳までは開示をする必要はない。あくまで、ストック・オプションの権利行使による自己株式の譲渡が全体で何株あったかを開示すれば足りる。

Q71 ストック・オプションの付与ならびに権利行使と証券取引法一六三条(役員等の売買報告義務)、一六四条(役員等の短期売買差益提供義務)の関係はどのようになるのか。

A 新株引受権方式のストック・オプションについては、新株引受権を取得する行為および権利行使により新株を原始取得する行為は、証券取引法一六三条および一六四条の適用対象外であると解される。また、自己株式方式のストック・オプションについては、今回の改正に伴う大蔵省令四六号において、商法二一〇条ノ二第二項三号に規定する契約に基づき株式の譲渡を請求する権利を付与された場合、ならびに権利行使により株式を取得した場合について同法一六三条および一六四条の適用を除外する旨の手当てを行った。  一方、権利行使により取得した自己株式を売却した場合には、同法一六三条の対象外とされていないため、原則どおり売買報告書の提出が必要となる。また、短期売買差益提供義務(同法一六四条)との関係については、単にストック・オプションの権利行使により取得した自己株式を売却した場合であれば適用を受けることはないが、仮に売却の六カ月前後の期間に自己株式を市場買付け等で取得した場合には、同法一六四条の適用対象となると解される。

Q72 オプションの付与条件(氏名、株数)、行使条件(価額、退任・相続)、行使結果についての開示方法・範囲はどのようなものか。

A 営業報告書の記載で求められる範囲で足りる。

Q73 ストック・オプションの付与状況(対象者、株数)、行使条件、行使結果につき、有価証券報告書等の開示書類では、どの程度の範囲内で開示する必要があるのか。

A 今般の商法改正に伴い、企業内容等の開示に関する省令も改正されており、まず有価証券報告書、有価証券届出書について、株式の状況欄に新たに「ストックオプション制度」の項目を設けて、ストック・オプション制度を採用している旨、当該権利の付与の対象者、株式の種類、株式数、譲渡の価額または発行価額、その権利行使請求期間および権利行使についての条件(当該権利の付与の対象者ごとに条件が異なる場合には、対象者ごとの条件)を記載することとされた(第二号様式記載上の注意(ラ)(10)および第三号様式記載上の注意(ホ)(11))。併せて、開示省令の取扱通達において、記載例が示されている。  有価証券報告書並びに有価証券届出書における開示事項の範囲については、基本的には株主総会での議案の要領の記載と同様の事項を開示することで足りる。したがって、付与対象者につき個別の氏名を明示せず包括的な形で決議された場合には、あえて個別に氏名を記載する必要はないし、仮に明示して決議した場合でも、対象者がかなり多数にのぼる場合には、記載スペースの問題もあり、対象者を特定できるような記載であれば、個別に明示しなくても差し支えないとする弾力的な取り扱いも認められるであろう。  なお、権利行使の結果については、個別の行使状況を開示する必要はなく、自己株式方式の場合は自己株式方式の処分の状況で、また新株引受権方式の場合は「資本金の推移」欄の部分における引受権の残高、引受権の行使により発行する株式の発行価額および資本組入額の注記部分で、それぞれ間接的に全体の権利行使状況が開示されることとなる。




八 インサイダー取引

Q74 自己株式取得に際しての、日本版セーフ・ハーバー・ルールは規定されるのか。

A セーフ・ハーバー・ルールは、米国のSEC規則一〇・−一八に規定されており、ここに掲げられている取引態様等を遵守すれば、相場操縦とはならないというものである。  日本版セーフ・ハーバー・ルールの創設については、かつて証券取引審議会(特別部会)で議論されたが、相場操縦に該当しない行為を規定するのは困難であるとして見送られた。したがって、現在のところ日本版セーフ・ハーバー・ルールが創設される予定はない。  ただし、前記証券取引審議会の報告書(平成六年二月)では相場操縦禁止規定との関係で問題が生じうる具体的な取引態様を列挙しており、これが避けるべき行為の一つの目安となるものと考えられる。

Q75 ストック・オプションの権利行使とインサイダー取引規制との関係については、どのように考えたらよいか。

A ストック・オプションの権利行使によって、自己株式を取得する場合には、自己株式方式、新株引受権方式とも、インサイダー取引規定の対象外となる。すなわち、自己株式方式の場合には、ストック・オプションが証券取引法上の「オプション」に該当することを前提として、証券取引法一六六条五号八号の規定(特別の事情に基づく売買等であることが明らかな売買等をする場合)に該当すると解されるため、インサイダー取引規制の対象外となる。一方、新株引受権方式の場合は、同条同項一号の規定(新株引受権を行使することにより株券を取得する場合)に該当するため、インサイダー取引規制の対象外となる。  このように、ストック・オプションの権利行使によって自己株式を取得する際は、インサイダー取引規制の対象外となるが、取得した自己株式を売却する場合には、一般の自己株式と同様インサイダー取引規制の対象となる点は留意が必要である。




九 税制関係

Q76 ストック・オプションに関する課税関係はどのようになるのか(特定新規事業法の場合と同様、権利行使時に生じた利益に対する課税は株式を実際に売却するまで繰延が認められるようになるのか)。

A この問題については、権利付与時・権利行使時(株式取得時)・株式売却時の三段階に分けて考える必要がある。 1) 権利付与時  ストック・オプションの価値を算出する計算式は、経済学の分野では研究がすすんでいるようであり、欧米では一定の理論に基づき価値を算出しているようである。しかしながら、わが国ではまだストック・オプションの価値を算定する方法につき統一的な見解が確立されていない以上、ストック・オプションの価値を算定して、これを課税対象とすることは困難である。  また、ストック・オプション制度の趣旨からして、権利行使価格を権利付与時の時価を下回る価格に設定することは認められない。実際にストック・オプションの付与に関する議案を決議した例を見ても、権利行使価格は権利付与日の時価もしくは直近の一定期間の株価の平均値を基準として、これに一定割合を乗じた価格とするのが一般的である。このことを考えると、権利付与の多寡にもよるが、ストック・オプションの価値はさほど大きくなく、現在のところあえて課税対象とする意義は薄いと解される。 2) 権利行使時(株式取得時)  ストック・オプションの権利行使は、通常は権利行使時の時価が権利行使価格を上回る場合に行われるであろうが、この場合権利行使時の時価と権利行使価額の差額について潜在的ではあるが経済的利益が発生することとなる。この場合の税務上の取り扱いは、「発行法人から有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合」(所得税法基本通達二三〜三五共−六)に該当し、差額につき原則として給与取得の課税がされることとなるであろう。  ただし、所得税法基本通達二三〜三五共−七によると、「有利な発行価額」かどうかは、差額が「発行価額を決定する日の現況における発行法人の株式等の価額」(時価)の一〇%以上であるかどうかにより判定されることから、差額が一〇%未満の場合は課税されないこととなると考えられる。 3) 株式売却時  権利行使をして取得した株式を売却した場合には、現在のところ一般の株式売却と同様の課税の取扱いとなる。ここで留意すべき点は、権利行使時に給与所得課税がされた場合、申告分離課税による場合の取得原価は、権利行使価格に給与所得の課税対象とされた「差額」の部分を加えたものが基準となるということである。ただし、権利行使をして取得した自己株式とは別に従来から自己株式を保有していた場合、取得原価は総平均法により算出されることとなる。

 

Q77 オプション自体への課税の可能性はあるか。

A Q76の1)で述べたように、現在のところはオプション自体への課税は困難であるといわざるをえない。しかしながら、将来的にオプションの価値の算出方法が確立された場合には、課税対象とされる可能性もあろう。

(やすおか・おきはる)